(君がほっかいろ!)




















なーな

























小平太





「あー……寒い」


がちがちと体を震わせて、首には長いマフラーを巻いて、しっかりと両腕を組んで。
寒くてしょうがないから足袋だって二枚重ねて履いちゃってる。
そろりそろりと、首をすくめたまま廊下を歩いていた。
さっさと自室に戻って火鉢にあたりたい。
と、その時突然背後から嫌な音が迫ってきた。

どどどどどどどど

忍たまらしからぬ騒々しい足音。
聞こえてきたと思ったら、あっという間に背後に迫ってきたもんだから、私はそれに反応するのが遅れてしまった。


「みーつけた!!!」
「ひぃやぁあああ!!!?」


びっちゃあっと、冷たい水滴がまず脳天を襲った。
後頭部に容赦なくぽたぽたと垂れてくる、しずく一つ一つずつが既に凶器だ。


「いっ!あっ!!ちょ、こ、小平太先輩!!?」
「うー、寒み〜」


私の抗議の声は一切気にせずに、さも当然の様に小平太先輩は後ろから私に抱きついてきた。
ぬ、濡れる!寒い!死ぬ!
背中の方に、あの服が濡れる嫌な感触が伝わってきたと思った瞬間、


「んー……あったけぇ」
「ひっ!いいいいい…」


しっかりと帯で止めてしまいこんでいた上着を、力任せに引っ張りだすと小平太先輩は、後ろから着物の中に両手を突っ込んできた。
腹かけすら邪魔とばかりにめくりあげて、直接肌に触れた小平太先輩の手の冷たさ。
思わず、息をのんでしまうほどだった。


「ふぁー、あったかーい」
「つ、つ、つ、つめたい…」
「よーし!このまま部屋まで直行!!」
「ひぃっあ!!?つ、冷たい!!!」


動こうとしない私を後ろからぐいぐい押しながら、その上わき腹に滑り込ませた両手で私の腰やら腹やらを撫でながら先輩に、部屋まで連行されてしまったのでした。






































仙蔵





「あー……寒い」


がちがちと体を震わせて、首には長いマフラーを巻いて、しっかりと両腕を組んで。
寒くてしょうがないから足袋だって二枚重ねて履いちゃってる。
そんな私が廊下をえっちらおっちら歩いていると、前方に不穏な空気を感じ取った。
あ、まずいかも。
そんな風に思っていたのに、それはそれはご機嫌な仙蔵さまが前からいらっしゃった。


「おお、こんなところにいたのか」
「…なんでしょうか?私は仙蔵に用事ないんですが?」
「ふっ、私がお前に用があるかないか。それだけを気にしてろ」


いちいち頭にくることばかり言ってくる奴だ。
今も、現にすごい私の笑顔はひきつっているに違いない。


「へー…そうですか。それじゃあ、私はこれで…」
「待て」


待てと言われて、待つやつは居ないわよねーと、日頃から友達と笑い合っている私が止まるとでも?
すると、少しいらだった声でもう一度。


「待たんか」


はい、聞こえなーい。聞こえなーい。
トッと、軽く床を蹴る音がした時に、まずいと思ったのに、私の体は動かなかった。
原因は着膨れと、寒さ。
あっという間に目の前に着地した、仙蔵のそれは凶悪な笑顔をマジマジと見る羽目になってしまった。


「私を無視すると、どうなるかまだわかってないらしいな」
「いっ!あ」


がっちりと両腕を組んでるんじゃなかった。
身軽な仙蔵は懐から、しゅるりと縄を取り出したかと思うとあっという間に私の上半身をぐるぐる巻きにしてしまった。
そして、にたりと微笑んだかと思うと、私の帯を取った。


「ぎぃあっ!!?ちょ、ちょっと!!?何するっ」
「しぃ〜」


さも楽しそうに、私の唇に人差し指を当てて黙らせる仙蔵。
私は私で、露わになった両足が痛いくらいに寒い。
そして、誰かにこんな格好見られたらと思うと気が気じゃなかった。
仙蔵は、慌ててる私とは対照的にさも楽しそうに細い指をたっぷりとこすりつけるように私の太ももに這わせてきた。
それが……あまりにも冷たくて、思わず息をのんだ。


「ハハァ、まさかこれだけで感じている訳じゃないだろうな?」
「ヒッ……さ、寒い、つ、冷たいぃぃぃ」


歯ががちがちと寒さで音を立てる。
その様子を満足げに見降ろしながら仙蔵は太ももに指を食いこませながら私の体を押した。
もう、されるがままの私は後退して、空き教室の中へと仙蔵とそのまま倒れこんでしまった。
指と同じように冷たい仙蔵の長い髪が頬をくすぐる。
仙蔵と体が触れ合っている部分だけ温かい。


「さあ、嫌ってほど熱くしてやろう」
「いっ、あ!!?」































三木







「あー……寒い」


がちがちと体を震わせて、首には長いマフラーを巻いて、しっかりと両腕を組んで。
寒くてしょうがないから足袋だって二枚重ねて履いちゃってる。
もう、一刻も早く自室に戻って布団を敷いてそのままあったかいお布団にくるまりたいくらい。
ああ、そうしたら絶対火鉢もつけて、一人でぬくぬくしてやるんだから。
なんて、一人の世界にどっぷりはまっていたせいで、天井から背後に降りてきた気配に全くと言っていいほど気づいていなかった。
私の馬鹿。
不意に、耳元で名前を呼ばれた。声から察するに三木ヱ門だと思うや否や、ぐるぐると巻いてあったマフラーが取られてしまった。
せっかく温かくしていた首筋が外気にさらされると、それだけで首筋に鳥肌が立ってしまう気がした。
なのに。


「ひっっぁ」


声ならぬ声。
十分な体温をもった首筋にあてがわれたのは、三木ヱ門の冷たすぎる両手。
まるで、後ろから首を絞めるように指を私の首に絡めてくる。


「ふっ…あ…つ、めた」


そのくせに、その指はまるで獲物をとらえた蜘蛛の様にじわりじわりと甘く優しく首を下へ下へと滑っていく。
襟元から無理やり着物の中へと侵入していく三木ヱ門の両手。


「あったかいなぁ」
「ひっ、み、き……冷たい」
「さっきまで委員会やってたんだよ」


延々とそろばんをはじいていた指がこんなにも冷たくなってしまったと、愚痴るように言ってから三木ヱ門は耳元で楽しそうに囁いてくる。


「でも、あったかい」


そのまま前へ前へと降りて行った両手の冷たさに大した反抗もできずに、寒さに震えていた。
すると、首筋にやっぱり指と同じように冷え切った三木の鼻筋と唇が押し当てられた。


「ふふっ、いい香り」


そう言われてしまうと、寒さとかくすぐったさとかよりも、どきりと心臓が跳ねる方が勝った。
だけど、それに勝るのが寒さだった。


「ちょっと、三木!さ、寒い!」


寒くて寒くてしょうがないから、三木から逃れようと体をよじった瞬間、


「うるさい」
「ふぁっ!!」


かじりと首筋に歯を立てられた。
そして、噛みついた場所にそのまま熱い舌を這わせてくる三木ヱ門からはどうも逃れられないらしい。
懸命の一手として、必死に私は声をあげた。


「せ、せめて、部屋で!!」


見えなくても、三木ヱ門の声で分かった。
なんか、嫌なこと思いついたなって。


「いいよ………そのかわり」


そっと吹きこまれた言葉に寒さなんて忘れるくらいに顔に火がついた。



































竹谷



「あー……寒い」


がちがちと体を震わせて、首には長いマフラーを巻いて、しっかりと両腕を組んで。
寒くてしょうがないから足袋だって二枚重ねて履いちゃってる。
わざわざ部屋から出て、食堂にお茶をもらいに行こうだなんて思った自分を呪った瞬間だった。
本当私って馬鹿だぁ。
でも、ここまで来たんだからもうちょっとと思って、食堂まで再び進み始める。
自分の足元ばっかりを見て歩いていたからぼふっと、何かにぶつかってしまった。


「ん?あ、竹谷」


竹谷がやけに青い顔してるなぁって思ったら、突然竹谷の両腕が私の体をがっちりと捕まえた。


「ぎゃ!?な、なに!?」


竹谷の胸に鼻をぶつけて少々痛いのも我慢して、竹谷を見上げた。
やけにうるうるしてる竹谷の目がこっちを見降ろしていた。


「うう……寒い」
「は?」


ぎゅうううっと、竹谷の腕に力が入ってより密着度が高くなる。


「お前あったかいなぁ!!」


ぐりぐりと頭に頬ずりされてる私は、さながら竹谷に可愛がられてる大型犬ってところだろうか。
困ったなぁ、こうなると竹谷暴走気味になっちゃってなかなか離してくれないしなぁ。
もう、慣れたもんでどんな手を使って竹谷から逃げようかと思案していたら。


「ん?」


なんだか普段感じたことがない感触が。
というか、なんか、寒いんですが。


「おい、八左ヱ門。どこを触ってる」
「あったかいなぁ…」


そーんな、しみじみ言いながら触る場所じゃない。


「おっぱい」


そして、そんな堂々と言っていい言葉じゃないよ?
いつの間にか、竹谷の手が胸元へと滑りこんで、あったかいあったかいと繰り返しながら私の胸を触っていた。


「ちょっと!竹谷、何やってるの!そんな子じゃなかったでしょ!!?」


私の反論なんてどこ吹く風。竹谷はそれはそれは嬉しそうに胸をもんでくる。
まあ、もまれて減るようなもんじゃないし。
竹谷と私は仲もいいし、まあ、もまれるくらいなら……と、思ったのが間違いだった。


「はぁはぁ……」
「え?ちょ、竹?」
「あったけぇ」
「ひぃぁう!?」


竹谷の指の腹が狙ったように胸の突起を擦りあげ始めた。
思わず出てしまった自分の声に顔を赤らめた。
気を良くした竹谷は私の名前を呼びながらすりすりと頬ずりをしてくる。
この手つきが本当の竹谷なのか、いつもの調子で頬ずりしてくる竹谷が本当の竹谷なのかわけがわからなくなってきた。
怖くて、鼻の奥がツンと痛くなってくる。
じわりと、眼もとに浮かんだ涙を目ざとく見つけて、竹谷はそれをべろりと舐めあげた。


「もっと……」
「ふぁ」


触れ合うほど近くなった鼻筋越しに、竹谷の眼の中にぎらりと光るものを見た。


「お前で、熱くなりたい」







































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