ごーお (世界中を敵に回して……) 仙蔵 もしも、世界中を敵に回しても私のこと守ってくれる?そんな他愛のない冗談を言ったはずなのに、こちらをみる仙蔵は一瞬目を見開いてから、思慮深く瞳を細めた。 「お前のために……世界を敵に?」 そうだと答えると、ぱっと嬉しそうに笑顔をつくって彼は口を開いた。 「守ってやるとも。お前が世界を敵に回すことになっても私はお前の傍らにいてやろう」 こちらが照れるようなことをサラリと言われてしまい、私は少し頬を染めた。 そんな私に近づいてきて、仙蔵はそっと手を握った。 「たとえ、そうなるように私が計画し、お前が私だけを見るようにするために世界を操って、それが非常にうまくいき世界がお前を敵と認識し攻撃しようとしても、私だけはお前と共にあろう」 って、仙蔵が黒幕かよ!と、突っ込んでやりたかったが、有無を言わせない笑顔のせいでごくりと言葉を飲み込むしかなかった。 仙蔵の手に力が入る。 「だがな……ただ、お前のためだけに世界中を敵に回すのは私にも分が悪い……そうだな、代償をきちんといただこうか」 「な、なに?」 一瞬それはそれは嬉しそうに目を細め、こうかくを吊り上げる仙蔵の顔から視線を離せない。 くつくつと彼の喉が鳴る。 「貴様の一生の愛を私に誓え」 そんなことを言われなくても、誓い終わっている愛だった。 だから、仙蔵の細い指が喉元の擦りあげたときに出てきたのは、ひゅっと喉を息が通り過ぎる音ばかりで……満足気に口付けを降らせてきた仙蔵にされるがままだった。 三郎 もしも、世界中を敵に回しても私のこと守ってくれる?そう三郎に言ってみると、彼はきょとんとし顔をした後すぐさまこくこくと無言でうなづいた。 「え?なにそれ?決断早すぎない?」 すると、三郎は雷蔵の顔だというのに、にやにやと笑い雷蔵とは似ても似つかないことを言い出す。 「なに?たった一人の女のために世界を敵に回すなんて無謀過ぎる。絶対に嫌だ。って言ってほしかったの?」 「い、いや別にそうじゃないけど」 じりじりと距離を詰めてくる三郎に戸惑ってしまい、私はもうどうしていいのかわからなくなってくる。 「それとも、別のこと言ってほしいの?」 前髪がふれ合うと、じりじりと今にも焦げてしまいそうな気がした。 目は、三郎の目。 三郎だけの目。 私を映し出している。 「私はね、世界なんてどうだっていいんだよ。お前が私の腕の中にいてくれれば、なんだっていい。地獄だって、焼け野原だって、どんな最低な状況だって、お前がいれば、」 ぞくりと、した 「極楽だよ」 それもそのはずだ、いつの間にやら三郎の手が私の懐に入り込んでその柔らかさを堪能しようという具合に白い肌の上で蠢いていたのだから。 「この!変態!!」 「変態な、私が好きなんだろう?」 言いかえすことのできない私に気を良くした三郎は、にやにやと啄ばむように口付けを落としてきた。 反抗しようと思えばできたが、本当はさっきの言葉が嬉しくてしょうがなかったから、今日は大人しく三郎の好きにさせてやることにした。 「うわ、な、ナニしてもいいの!?」 「わ、ちょ!!?」 綾部 もしも、世界中を敵に回しても私のこと守ってくれる?と、穴の中で一心不乱に土を掻いている綾部に声をかけた。 すると珍しく手を止めて、こちらを見上げてくる綾部。 まるで私のことを全部見好かそうとしているような目。 「なに?なんかしたの?」 「い、いや、別にたとえ話だってば」 「世界中を敵に回すようなことって、普通そうそうできないと思うよ」 「分からないじゃない。そういう状況にもしもなったらって聞いてるの」 「そう……」 そう言うと、眉をひそめて何やら考えている様子の綾部。 どんな答えが彼から返ってくるのかちょっと胸をときめかせて待っていた。 ようやく答えが決まったのかこちらをもう一度見上げる綾部。 「君が、世界中で喰い逃げをして、世界中を敵に回しても自業自得だから助けてあげない」 「え……?」 「だけどね………おい、しょ」 彼は穴の中から出てきて、着物についた土をパンパンと払い落し、それから私と向き合った。 そして、いつものように無表情のまま、 「わ〜!」 と、棒読みの掛声を上げて私に抱きついてきた。 ぎゅうぎゅうと綾部の腕の中で抱きしめられる私。 「わ、な、なに!?綾部!?」 「かわいそうに!そんなにお腹がすいていたんだね!」 「え?あ、なに?」 「そうだ、そんなにお腹がすく事がないように、そんな世界中を敵に回す前に」 ぴったりとお互いのお互いの体温を感じすぎてしまう距離。 そんな距離というのを謀ってか謀らずか、綾部はそっと私の耳元で呟いた。 「私んとこ、おいで。面倒みてあげるから」 はい、誓いのキス。と、綾部は私の頬を掴んでそのまま口付けてきた。 柔らかい感触が唇に。 あまりに理解できない行動に、私は、頭が真っ白になった。 そんな私を見て、綾部が微笑んだ。 「君のこと、私が予約済みだからね」 竹谷 もしも、世界中を敵に回しても私のこと守ってくれる?と、虫ばっかり見てる竹谷に向って言ってみた。 すると、ようやく虫から目を離してこちらを見てきた。 「何バカなこと言ってんだよ。当たり前だろ?」 なんか、変なものでも食ったのか?と、首をかしげて来る彼に、どう返していいのか分からない私は、あぁとか、うぁだとか、訳のわからない唸り声を上げてしまった。 「じゃあさ、」 ずいっと、私たちの間にあった虫籠を横にどかして、竹谷は私の目の前に膝を進めてきた。 「お前は、俺が世界中を敵に回しても、俺の味方してくれるか?」 ニコっと、笑顔を浮かべてくるのは反則だ。 そんな顔されて、嫌だと答える自信なんてどこにもない。 「……うん、竹谷のためならいいよ」 なのに、竹谷ったら「だーめだっ」と言って、私にでこぴんをしてきた。 「な、なんでよ!」 「俺なんかのために、お前が世界中から嫌われるなんて俺がいやだからだよ」 「なっ、た、竹谷だって、さっき私が世界中を敵にしたら守ってくれるって言ったじゃない!」 「俺はいいんだよ!お前のためだったら、俺なんてどうだっていーの!だけど、お前が俺のために犠牲になるなんて俺は許さないからな!」 まるで、それが絶対の真実かのようにうんうんだなんて、頷いている竹谷を見ていたら、呆れて言葉も出なかった。 なのに、それを同意と受け取ったのか、竹谷は私の名前を呼んで上に覆いかぶさってくる。 「わっ!?」 ぎゅうっと抱きしめられたまま二人で、ごろごろと転がる。 竹谷の腕の中でそうしているうちに、別にこんなくだらない質問どうでもいいかと思ってきてしまうのだから不思議だ。 「あー、あったけー、やわらけー、好きすぎてだめだー」 そうして、少し恥ずかしそうに笑っていても、惜しげもなく好きだと言ってくれる竹谷のためなら、世界を敵に回してもいいって本当に思った。 言葉にして嫌がられるのならと、私は竹谷の首に自分から腕を回した。 ちゅ、と、音をたてて唇を重ね合わせた。 それから、顔を見合せてまた二人で笑った。 終 みなさん拍手ありがとうございました! |