じゅうよん



(酔って酔って酔って)






































(竹谷)










かたりと持っていた椀が落ち、中に微かに残っていた数滴が膝に零れてしまった。
俺は、どうしようかと、上にのしかかってきた君の肩をとりあえず掴んでみた。
それなのに、ぼうっとした目で、俺のことを見ていたかと思うとゆるりとその唇が弧を描く。


「ねーえ、たぁけやー」
「ん、な、なんだ?」


周りの音はどんどん遠のいて、君の放つ酒気に閉じ込められていく。


「ねえねえねえ、」
「だから、なんだ、よ」


くうっと、押された胸板。
細い指に触れられて、十か所も火がつくほどに熱い。
ゆっくりとそのあとに手のひらに触れられた。


「あ、」
「ね、竹谷」


光った眼差しは、直接頭の中に届いてくる。


「ちゅう、しようよ」


だめだ、だめだ、だめだ、どうしよう……押されたまま倒れてしまう。
くらりと君にときめいて死んじゃうよ!

























(滝夜叉丸)





「う、あ……っと」


やばい、どうしようと考える前に楽しくてしょうがなくなった。
自分でもゆらゆらと揺れていたのを知っていたが、ついにはくらりと浮遊感を感じて右手でなんとか体を支えた。


「あははは!すっごい、どうしよう揺れてない私!すごくない?」
「ああ、すごいな」


目の前に座った滝夜叉丸が二人の間においてある銚子を取り、くうっと喉を鳴らした。


「あ!」
「ん?」


口を閉じたまま、楽しそうに首をかしげた滝夜叉丸に膨れて見せる。


「ずるい、私も飲みたいの!飲みたいー!」


すると、滝がすごく楽しそうに笑った。
口は閉じたままだし、笑い声もしない。
変な滝夜叉丸が面白くて、一緒に笑うと、つうっと急に滝夜叉丸が近付いてきた。


「んっ、ぅう」
「………はぁ、うまいか?」


流れ込んだ液体よりも、合わさった唇の方が熱くてしょうがない。
あれ?


「あ、う、ん。おいしい」
「そうか」


にこりと笑みを浮かべるその体がいつの間にか真上にあるのに、ともかく楽しくて笑ってみた。


「滝ー、楽しいね」
「ああ、楽しいだろう?」


腕の中で、無防備に笑っているお前を見て、私も楽しくてしょうがない。
酔ってよって酔わせて、触れられたらもう逃げられないくらいに、私に堕ちてこい。


















(文次郎)



やめろと言っているのに聞かないこのバカタレ。


「うあー、なんで、もっともっと〜」
「うるせー、耳元で騒ぐな」
「もんじろうぅの、ばぁか!あっははははは!」
「はぁ」


じたじたと、手足を動かして、背中で酔っぱらいが騒ぎまくる。
誰かが起きてくるかもしれないという配慮もないが、これぐらいの騒がしさの中でも眠れないようじゃ、立派な忍者になれるわけない。
というか、こいつを黙らせる方が難しいと言った方が早いか。


「ねえねえ、文次郎〜、どこに行くの〜?」
「部屋だよ部屋」
「え!?文次郎の部屋!!きゃー襲われる―――!」
「ちげーよ」
「えー?」
「お前みたいなやつ誰が襲うかって」


軽く笑いながら、買い言葉に売り言葉を投げつけた途端に静かになってしまった。
あまりの変わりように、どうしたもんかとりあえず黙って歩いた。
不意に、あんなに暴れていたはずの腕がするりと首に絡んできた。
背中に押しあてられる体温に、思わず足が止まった。


「………」
「どうした?」
「……ばっ、か」


名前を呼ぶ前に、耳元で呼ばれた自分の名前に心臓が焦げ付いてしまう。


「そんな、こと、言わないで」


ぎゅうっと、絞めつけられる距離。


「いやだよ」


あ、あ、あ、どうしたらいいんだよ。
知らない感情が今、二人の間で融けはじめた。














(タカ丸)


湿った指先を目の前に、いつもと何ら変わりのない笑顔を浮かべているこの男に、私はどうしたらいいんだろう。
目元に影を作る長い前髪は、なんのポリシーを抱いているのか知らないが、あの奥にある感情をわざと隠しているんじゃないかと疑いたくなる。


「ねえ、もっと飲みたいな」
「うっ……い、いいよ?」


あまり酒が得意じゃないと言うから、いじめてやろうと思って飲ませ始めたはずだ。


「はい、いっぱいひたしてー」
「わ、分かってる!」


指を杯に浸して、酒気を帯びさせるとタカ丸に導かれるままに彼の口の中へと這入っていく。


「ひっ」
「んふふ〜」


このまま噛み切れると言わんばかりに歯をたてられると、思わず声が出てしまう。
それに優越感を感じているのか、この斎藤タカ丸という男は声を私が上げてしまう度に今度は、柔らかく舌を絡めてくる。
細胞一つ一つに染みいった酒気を吸い上げるかのように、舌が動く。


「あ、た、かまる」


ちゅぽんと、音を立てて指が口の中からようやく逃げられた。
なのに、手首をがっちりと掴まれほんの僅かにさえ後ろに下がることすらできない。


「どうしたの?僕より君の方がお酒、弱いみたいだね」
「ち、が」


かっと、耳まで熱くなる錯覚。


「そお?そんなに赤くなって」
「なって、」
「ああ、」


くうっと、細まる目。


「感じちゃったんだ?」


こんなにも眩暈を感じるのは、酒のせいに違いない。















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