(ミルキーウェイ)




































綾部










二人の間にあった小瓶のふたを取る綾部を見ていると、掬うためのスプーンでさらりと音を立てて中をかき混ぜていた。
細かい粒子がさらさら流動しても、上に乗った青い星と白い星は音もなく傾いただけ。


「なにしてるの?綾部」
「んーっと」


ぐるぐるぐるぐる……
休まることなく綾部はくるりとスプーンを動かす。


「ねえ、そんなにかきまわしても中に入ってるの、砂糖だよ?」
「だってさ」


綾部はむーっと唸ったあと、小さくため息と一緒に私の名前を呼んだ。


「なに?」
「はい、あーん」


綾部が差し出したのは、今まさにかき混ぜていた瓶の中に入っていた小さな青い星。
唇に、綾部の指ごと触れた。
舌先に痺れるような甘さが広がる。
だれが見ているかわからないのに、思わず口に含んだ。
甘い。


「本当はね、ハートのお砂糖見つけてあげたかったんだ」


言わずとも、私のために、だと、思う。
少し残念そうに拗ねた表情をした後、今度は両肘をついて「はい」と、唇をゆるくといた綾部。
両手の上に載っている顔は、嬉しそうに微笑んでいる。


「今度はそっちの番、あーん」


どうしようもなく、顔が紅くなってしまう。
小さな星を摘まみ上げた指先が震えているのを見透かされているように、口元まで近づいた手を綾部に捕られた。


「ん、おいしい」































竹谷






どことなく居心地が悪そうな竹谷も、食べ終わったころにはいつもの調子で美味かったな!と、笑顔を浮かべていた。


「あ、これ見ろよ」
「なになに?」


嬉しそうに何かを見つけた竹谷は、嬉々としてテーブルの端に置かれていた小瓶を手に取った。


「ほれ」
「あ」


竹谷が蓋を取ると、中には青い砂糖ばかりが詰まっているかと思いきや、表面に白と青の可愛らしい星が散っている。


「お前こういうの好きだろ?」
「うん」
「やっぱ、ここに来てよかったな」


私よりも、私のために喜んでくれる竹谷に胸が静かにいっぱいになってくる。
そのあと、二人で向かい合って取りとめもない話を続けていた。
本当は、隣の席に座った恋人同士が飲んでいる二つのストローが付いている飲み物を自分も飲みたかったとは、とてもじゃないが言いだせなかった。
竹谷がここに連れてきてくれただけで、本当にうれしいんだから。
そうして、竹谷から目を離していると急に呼ばれた。


「え?」


振り向いてみると、竹谷はべっと舌を見せてきた。
舌の先に乗っているのはさっきの青い星。
ほんの少し崩れている、小さな星。
それに気を取られていると、あっという間に引っ張られた。
声を上げる暇もなく、テーブル越しに口付け。
あんなに小さな星なのに、馬鹿みたいに甘い。


「な、な、な、」
「甘いな」


そう言って、真赤な顔をして笑う竹谷。


「ばか」


一番端の席で良かった。
言ったら、きっと竹谷は見られたっていいだろ?って返すに違いない。
そう思うと、もう竹谷を起こる気も失せて、ただ口の中に広がる甘さにくらくらしていた。
























食満



「おい、やめろよ」
「いいじゃん、ほら、すごい可愛いよ?」


スプーンの上で二つの星が踊っていた。
白と青。あからさまな人工的な色だったが、完全に造りこまれたこの店内の中でならなんの違和感も感じない。


「はい、あーん」


ふざけて留三郎の口元へとスプーンを運んだが、うっすらと頬を染めてやめろと小さく嫌がっただけだった。
本気で怒っていない事なんてわかってる。
すぐにくしゃくしゃにして、「あーんってしてほしいのか?」だなんて聞いてくるから、今度はこっちの顔が少し赤くなってしまう。
なんていうか、すごく心地のいい関係。
二人で顔を見合わせて声を上げて笑った。
さくりと、スプーンが砂糖の中に潜る音が耳にくすぐったい。


「あーん」


目の前に差し出されたスプーン。
砂糖の粒は全部ふるい落とされて歪な形の小さな星がひとつだけ乗っていた。
唇に触れた鉄の感触に、気付かれないように身震いしてしまう。
ぱくりと口に含むと、舌の先で小さな星が溶けて甘さが広がった。


「甘いか?」


その歪な星が、まるでハートの形のようだったなんて、きっと留三郎は気付いていない。
くすぐったいような、恥ずかしい様な気がして、返事を返した。


「留三郎みたいにね」
「なに言ってんだよ」


留三郎の大きいてが、私の前髪をくしゃりと撫でた。































文次郎







店から出ると、ようやく我慢していたらしいため息をついた文次郎。
文次郎の背中を見つめながら、やっぱり嫌だったかなと、少し後悔していた。
でも、どうしても文次郎と来たかった。


「ごめんね、今日は」
「別に気にすんな」


それでも、なんだかいつもの覇気が感じられなくてどうしていいのかわからなくなってしまう。


「美味かったしよ」


確かに、文次郎は全部食べきっていたが、始終眉間の間には皺が寄りっぱなしだったのを見逃しているとでも思っているのだろうか。
……そうやって考えてみると、普段の文次郎と比べるとあの店には文次郎が似合わない。
恐ろしいほど似合わない。あの店員さんの制服を着た文次郎を想像してしまって、思わず噴き出した。


「何笑ってんだよ」
「あ、別に!なんでもないよ」


慌てて文次郎の隣へと駆け寄る。


「あ」


普段はめったにしてくれないのに、文次郎から手をつないでくれた。
驚いて、文次郎の方を見上げるとそっぽを向いて顔を赤くしている文次郎がいた。


「お前と一緒にいられるのが嬉しいって解れよ……バカタレ」
「え、あ」
「ほら」


もう一方の手に押し付けられたのは小さな包み。
青い星の包み紙。


「あ、これって……」
「好きなんだろ?これ」


店においてある星の形をした砂糖。


「あ、も、文次郎!!」
「さ、帰るか?」


甘ったるいパフェよりも、文次郎がくれる喜びの方が馬鹿みたいに甘かった。

























































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