(共闘者どもの叫び)






























伊作






空を劈く烏の鳴き声が、やけに朗々と響き渡った。
ぎりりと、下から睨みつける双眸が光っている。
その両目をどう見返したらいいのか分からずに困惑していると、彼女は赤い唇を震わせながら言い放った。


「伊作、私の邪魔しないでよね!」
「邪魔って……」
「足手まといにならないでってこと」


こうも、面と向かって言われるのは不本意極まりない。
反論しようとしているのに、くるりと踵を返し、髪を揺らしながら彼女はツンッとそっぽを向いて敵がどこにいるかをせわしなく探し始めた。


「不運すぎて、足手まといになるのよ」
「そんなこと!」


そう言った瞬間、ちょっと足を滑らせてよろける。


「ほらね?」


まるで勝ち誇ったかのように、一歩足を踏み出した彼女は、突如叫び声を上げてくるくると宙に舞った。
まんまと、敵の罠にかかっている君。


「きゃあああああ!!?な、なにこれ?」


身体中を縄で縛りあげられてしまった君の顔が丁度、私の顔の前にある。


「さて、足手まといなのはどっちかな?」


ことさら頬を赤く染めた彼女の表情が、やけに可愛らしく見えた瞬間だった。
するりと、頬に手を伸ばす。


「さあ、さっきの言葉、撤回してもらおうか?」


にっこりと、微笑みながら、これからどうしようかと思案した。






































食満





空を劈く烏の鳴き声が、やけに朗々と響き渡った。
どうやら、周囲に膨らんでこちらを刺激してくる気配は多々あるようだった。


「ね、留」
「ん?なんだよ」
「どうしよっか?」
「どうすっかな?」


大体顔を合わせれば、喧嘩ばかりお互いにふっかけあうって言うのに、この場ばかりはそんなことよりも、この状況をいかに打破するかってことの方が重要かってことぐらい分かっている。
手に握った苦無が、汗が滑るのを抑えるために、もう一度握りなおした。
じりじりと、互いに周囲を確認しながらこの先の作戦を考える。
だけど………


「なんも、思いつかないや」
「お前、馬鹿じゃねーの?」


肩越しに食満を振り返ると、にやりと不敵に吊り上げられた唇の端が見えた。
なんか悔しいのだが、押し付け合った背中同士がやけに暖かい。


「俺が、絶対守るから安心してついてくりゃいいじゃねーかよ」


どんっと、食満の背中を、自分の背中で押してから前を睨みつけた。


「じゃあ、お手並み拝見といきましょうか」
「まあ、大船に乗ったつもりで俺に任せろ」


とんだ、アヒルさんボートに乗ったもんだ。












































長次




空を劈く烏の鳴き声が、やけに朗々と響き渡った。
丸く切り取られた空が私たちを見降ろしていた。


「ねえ、長次……」
「……」


別に返事を期待したわけじゃなかったが、このままではなんだか気が滅入っていく、一方な気がしてしまうのだ。
独り言を承知で、さっきから話しつづけている。


「どうやってここから出ようか……」
「……」
「空、あんなに遠いね」
「……」
「どうしよっか、敵来たら?」
「……」


そして、自分の足の間へと視線を送る。
私が跨っている長次の太もも。


「ねえ、痛くない?」
「…大丈夫だ」


人さし指を伸ばして、太ももをなぞるとピクリと長次の体が反応した。


「んっ……」
「やっぱり、痛いんだよね?」
「……心配するな」


背を長次の胸に預けると、やけに安心した。
ああ、いつになったらここから出れるのか。





































小平太





空を劈く烏の鳴き声が、やけに朗々と響き渡った。
思いっきり走りぬけるせいで、周りの景色は直線に見える。


「ちょっと!小平太!これじゃあ、何の意味もないじゃない!」
「いけいけどんどーん!!!!」
「小平太ー!!」


私の叫び声を知ってか知らずか、突如止まった小平太の腕の中からすぽんと音を立てて抜けてしまった体が宙に舞う。
それでも、ふだんの鍛錬のおかげかくるりと身を返し、なんとか地に着地した。


「ちょっと、こへい……」
「シッ…」


小平太は何を思ったのか、突然私の体の上にのしかかって来る。
抵抗して、顔を手で押しやろうとした瞬間分かってしまった。
火薬の匂い。


「小平太」


名前を呼んで小平太を見上げると、どうやら同じことを考えていたようで、同時に私たちは懐から苦無を取り出した。


「いけいけどんどーん!」
「おりゃああああ!!」


互いに雄たけびを上げながら、土に思いきり苦無を突き立てる。
土煙を上げながらどんどん塹壕が掘りあがっていく。
ターンと、耳をつんざく音が響き渡り、ちりっと熱が一瞬頬をかすめた。


「あ」


頬から垂れた血を見て、不意に顔に影が落ちた。
生温かい感触が、頬を舐めあげた。


「しょっぱ」
「ばっ!!!!?」












































拍手ありがとうございました!

それぞれが、なんらかの思惑を持っているといい。