あまりの寒さに、逃げる前から隠れる場所を決めていた。


「あった!ここ、ここっ!」


一応、周りを窺って誰も見ていないことを確認してからそっと四つん這いになった。
がさがさと、積りに積もった落ち葉の山の中に体を潜り込ませると、案の定あったかい。
冷たい空気と遮断された落ち葉の中は、まるでお布団…とはいかないが、寒さと時間をしのぐには充分だった。


「ふふ、ここなら絶対見つからな…」


不意に頭上に迫る気配に咄嗟に息を殺し、口を閉じた。
何も考えずに、じっとする。
ざんっと、枝が大きく揺れる音がした。


「あれー、ちゃんはどこだ?」


ぞくりと、その声に産毛が逆立った。
七松、小平太せんぱい。


「おっかしーな。こっちの方に逃げてきてるはずだけどなぁー」


心を、無に。
心を、無に。
なにも考えちゃいけない。
私はここにはいない。
誰もここにはいない。


「うーん……いそうな感じがするけどなぁ」


無。
すなわち、我空気。


「早くちゃんに突っ込みたいのになぁ!」
「っ………」
「うしっ、もう少し先に行ってみるか!!いけいけどんどーん!」


ざわりと大きく枝が揺れ、あからさまとも言えるほど濃密な七松先輩の気配が遠のいていった。


「………きょ、凶悪だ」


見つからなくて良かったと、心底思った。
見つかった瞬間、ナニをされるのか……想像しただけでも青ざめてしまった。


「暴君、恐るべし」


落ち葉の中で膝を抱えて、震えてしまった。
すると、突然首根っこを掴まれ引っ張られた。


「ひっ!?ぎゃああああ!ゆ、ゆるしてくださいいいいいい!」


ずぼっと、落ち葉の中から引きずり出されてしまい、そのままつりさげられてしまった。
あまりの恐怖に身がすくみ、ぎゅうっと目を閉じた。
絶対、七松先輩だっ!!!


「ああああ!ごめんなさいごめんなさい!許して下さい!」
「……え、あ??その…」
「ん?」


目の前にあった顔は、どこからどう見ても、竹谷八左ヱ門の顔だった。
驚いた竹谷の目と目が合うと、ばつが悪そうに頬をかいた。


「あ、よ、よお」
「た、竹谷かぁ〜〜よかった〜〜」


一気に緊張していた体の強張りが取れた。


「私、七松先輩かと思って本当、死ぬかと思った…」
「え!?あの人いたのか?」
「うん、さっきまでね。私に気付かないで行っちゃったからよかったけど」
「そっか」


竹谷も安心したのか、ほっと息をついた。
私も、竹谷が来たことで変に緊張が抜けて、今日一日何とかなる気がしてきた。


「あー、それにしてもなんで竹谷私がここに隠れてるって分かったの?」
「ん?ああ、それはあれだよ。この前子ウサギ逃げ出した時に、ここに居たから」
「うわ、私は動物と一緒かっ!」
「でも、いいじゃねーか。熊とかじゃなくて」
「まあ、可愛いけどね!うさぎのほうがね」
「だろ?」


声を合わせて思わず笑ってしまった。
気を張らずに済む竹谷とは、仲がいい。


「さて、と。竹谷、降ろして」


未だぶらぶらと首根っこを掴まれた猫状態だった私は、首をかしげて竹谷にお願いした。
すると、竹谷は降ろすでもなくあーだか、うーとか言いながら同じように首をかしげてしまった。


「ん?」
「ん?」
「私ほら、隠れないと」
「……」
「誰かに見つかったらなにされるかわかんないし」
「……」
「わっ!!?」


どさっと、落ち葉の山の上に落とされた。
突然手を離されてしまい、痛くはないがお尻を打ってしまった。


「ちょ、ちょっと竹谷なにすんの!」


全然こっちの話なんて聞かずに、竹谷は私の隣に腰をおろしてくる。
私の方なんて全く見もしない。
なんだこいつは。


「……、寒いか?」
「寒いに決まってるじゃん」


おもむろに、竹谷は首まきを半分取って、私の首にも巻き付けてきた。
あったかい。


「これならあったかいだろ」
「う、ん」


耳を真っ赤にさせた竹谷がにっと歯を見せて笑ったのを見ただけなのに、相手は竹谷だって言うのに、私の心臓がおかしくなってしまった。
馬鹿みたいに早く鼓動を打つのをやめない。


「あ、ありがと」
「お、おう」


寒いだなんて感じないくらいに、隣に座った竹谷と触れている所を変に意識してしまう。


「あ、そうだ
「な、なに?」
「言い忘れてた」
「ん?」
「みーつけた」


これ以上


「めりーくりすます」


傍にいたら好きになってしまうのに


、好きだ」


ずるい。


















メリクリ4