○ 辺りの様子を窺い、誰もいないことを確認してからは安心して戸を閉めた。 全く、こんなことに巻き込まれて自分が無事なまま終わるわけがないだなんて、分かっていたのに。 そう思っても、先輩方ならず三郎にまで「だまされたと思って!な?いいだろ!」だなんて拝み倒されてしまえば、皆の前で嫌だとも言えるわけがなかった。 皆さんには申し訳ないが、日が暮れるまで裏山で追いかけっこを続けてもらいましょう。 「ふぁ〜……あったかい」 は背を丸くしてこたつの中に入り込んだ。 きり丸にお駄賃を出して、わざわざ三人の部屋に準備してもらっておいた品だ。 勿論、中に入れられていた懐炉などなどの燃料費もこっちもち。 それでも、こんなに寒い日に外を走りまわらなきゃいけないことに比べたら、痛くない出費だった。 「あーん、きり丸愛してるありがとおお!」 今はいないきり丸に愛を叫んでみた所で、ぐうっとお腹が鳴った。 「うー…んと、あ、そうだ」 ごそごそと懐を探って、は手の平程度の大きさの包みを取り出した。 甘い香りが鼻をくすぐる。 包みをあければ、白い雪の様なクリームがたっぷりと乗ったケーキだった。 目を輝かせながら、は無言でそのケーキにかぶりついた。 「あまーーーい」 体いっぱいに広がる幸福感。 「ちゃんおいしい?」 「うん、とってもおいしい、甘いよ」 「ふふ、よかったね」 「うん!……ら、雷蔵!!!?」 いつの間にか、部屋の戸にもたれかかった雷蔵がこちらを楽しそうに見ていた。 雷蔵も、かくれんぼ大会に参加していた、はずなのに。 はキンっと背筋が寒くなった。 そんなの心境を知ってか知らずか、雷蔵は笑みを絶やさず、の隣に座ってこたつに体を滑り込ませた。 は、自然と雷蔵のために端に寄ったが、苦しくなるほどの沈黙が続いていた。 手にはケーキを持ったまま、ちらりと隣の雷蔵の様子を窺った。 「あ」 「ひっ!?ら、雷蔵どうしたの?」 「ちゃん、じっとしてて?」 「え、あ、らい、ぞ」 雷蔵はに顔を近づけると、の唇の端についている白いクリームを、真赤な舌を突き出して舐めとった。 「ん、甘い」 「な、あ、ら、ら、ら、らいぞぉ」 困惑して、へにゃりと眉尻も下がってしまったの頭を雷蔵がわしわしと撫でた。 「ちゃん顔真っ赤だよ?」 「う、だって、雷蔵がな、舐めたんだもん!」 「クリーム、ついてたから」 「で、でも、舐めなくっても!」 雷蔵に触れられている場所が、溶け出してしまいそうに熱い。 こんな風になったこと、今までに一度もないのに。 「ああ、そうだ」 慌てるを他所に、マイペースに雷蔵は微笑んだ。 「ちゃん、メリークリスマス」 「あ」 「プレゼントは、もちろんちゃんがいいな」 「……ば、ばか!」 「うん、そうだね」 まるで、いつもの雷蔵みたいじゃないのに、目の前で会話をしているのは確かに三郎だなんてなくて雷蔵だった。 どうして、こんなにも心臓が跳ねまわっているんだろう。 しかも、嫌じゃないのが自分でも不思議だ。 「それじゃあ、ケーキ残ってるの半分こしよっか?」 「あ、うん」 雷蔵が分けてくれたケーキを受け取る時に、彼の指先に付いた白いクリームが目について仕方がない。 「ああ、そうだちゃん」 「な、なに?」 耳元に寄せられた唇にぞくりとした。 「きり丸に言ってあるから……日が暮れるまで誰も来ないよ」 「え?」 「ちゃん、大好きだよ」 めりーくりすます。恋人同士になろう。 終 メリークリスマス!2 |