山の中に入って、はぎゅっと自分の懐を押さえた。
中に入っているものの形が崩れてしまっていないことを確認すると、ほっと息をつき、杉の木の幹に背を預けた。
周囲の気配を探ってみても、何も感じない。
まだ、誰もここまでやってきていないようだ。
しかし、走っている途中でもう彼等もこちらに向かってきているはずだ。

どきりと、芯がなる。

うまくやらなくてはという緊張が少しと、これからのことを思う緊張がいっぱい胸を締めつける。
ともかく、誰かに見つかるわけにはいかない。
葉の中に体を紛れ込ませるように、少ないとっかかりに指先をひっかけては木に登った。


「お」


寒さをこらえながら、学園の方を遠目で見てみると、紫色が動くのが見える。
大体最高尾があそこだとすると、もう六年生は山の中に入ってるに違いない。
慎重に気配を消して、じっと堪える。
自分の予想が正しければ、きっと、来るはずなのだから。
遠くから、段々と待っていた声が聞こえてきた。
しかし、運の悪いことに声は二つ。


「食満ついてくんじゃねえ!」
「はぁ!?お前こそ俺についてきてんじゃねぇ!」
「ああ!?先にこちらに見当をつけて走り始めたのは俺だ!」
「俺だっつーの!!」


またやっていると、は声を押し殺して笑った。
追跡して、彼が一人になった所を狙うか。今、を狙うか。
悩ましいが、うかうか追跡している所を後ろから見つかってしまうのなら……今だ。
は意を決して両足に力を込めると宙に飛びだした。
懐を押さえて、ぐんぐんと落下していく。


「もんじろおおおおおお!!!」
「え?あ、おおおお!?」
「だ、!?」


まっすぐ自分に向かって落ちてくるに咄嗟に反応して、文次郎を両腕を差し出して、突如として降ってきたを抱きとめた。
すとんと、探していた筈のが自分の腕の中におさまっていた。
あまりの急展開に二人はぽかんとを見つめている中、は微笑みながら懐に手を突っ込んだ。


「なっ!?」


はそっと懐から甘い香りが香ってくる包みを取り出して、そっと手の上で開いた。
甘い甘いクリームと、真赤な木イチゴがのせられたケーキ。


「文次郎、メリークリスマス」
「め、めりーくりすます」
「はい、あーん」


の言葉につられるように口を開けた文次郎に、はケーキを食べさせた。
文次郎の頬が赤いのに、負けないくらいの頬も赤い。


「…甘っ」


は文次郎の首に腕を回すと、彼の唇の端についていたクリームをぺろりと舐めとり、そのまま軽く唇を重ねた。


「つめてぇ……この、バカタレ」
「文次郎に、捕まらないと意味ないもん」


かくれんぼ大会で、最初にを見つけた文次郎が、プレゼントをもらえた。


「んふふー、留は文次郎が最初に私を見つけたって言う証人ね!」
「くっそ……今日だけは、お前に譲るけど、俺はぜってぇ諦めない」


じりっと文次郎を食満は文次郎を睨みつけると、そのまま元来た道を引き返し始めた。
は、食満の背中に小さく「ありがとう」と呟き、そのあと文次郎にしっかりと抱きついた。


「すっごい、どきどきした」
「バカタレ……俺だって、お前が仙蔵の口車に乗った時はどうしようかと思ったぞ」
「だって、こうすれば誰にも邪魔されないでしょ?」
「あー……まあ、そう、だな」


二人は、おでこを擦り寄せながら、微笑んだ。


「「めりーくりすます」」


空からは、ちらほらと雪が舞い散り始めた。


























メリクリ!1