静かな二人 この図書委員の中で暗黙の了解といえば、委員長の中在家先輩とくのたまの五年生のがお付き合いしているということ。 公然とそういう関係を大っぴらにするような二人でもなかったから、この二人が付き合っていることすら知らない人がほとんどだろう。 だけど、必ず委員会が長引けば控え目に図書室へやってくる先輩の姿や、それを見つけると普段からは想像もつかない柔らかい、本当にそれは微かでしかないのだが、中在家先輩が浮かべる笑みを見て、皆がぴんと来たのだ。 ああ、この二人はきっと互いのことを好きで、お互いそれを認め合っていて、互いを支え合っているのだろうな、と。 そのとおりだった。 二人の恋は決して激しく情熱的に燃え上がるようなものではなかったが、川のせせらぎの様に静かながらもゆったりと流れていた。 切なくなる程に、胸が温かくなる恋だった。 この日も、いつもと同じように新しく入った本の整理と配架にいそしんでいると、いつの間にか外が暗くなっているのにも気づかなかった。 黙々と、薄暗くなってきた手元に視線を集中させていたとき、突然きり丸が顔を上げた。 そして、そのままきり丸は立ち上がると戸の方まで歩いて行った。 一体どうしたのだろうと、その姿を皆が顔を上げて追いかけた。 からり 「中在家先輩ー、さんっすよー」 きり丸が八重歯を見せながらそう言ったのと、が小さくくしゃみをしたのは同時だった。 の姿を認めると、ぱっと立ちあがる中在家に、皆が目くばせをした。 慌てるでもなく、中在家はそばにあった火鉢に炭を入れた。 その間に、きり丸が「遠慮しないで!どーぞどーぞ!」と、調子良くの背中を押してわざわざ中在家のところへと押しやった。 は恥ずかしそうに、きり丸に「遠慮なんてしてないわよ」と一言言ってから、床に目を伏せる。 あ、この瞬間だ。 久作と怪士丸が顔を合わせ、息をのみながら二人のことを見つめてた。 雷蔵はそんな久作と怪士丸に苦笑しながらも、同じように自分もと中在家先輩の方を見た。 「」 同じ図書委員でもめったに聞かない中在家の声が、そっと秘めごとの様にの名前を呼ぶ。 すると、は伏せていた視線をゆっくりと、長次へと向ける。 じっと、互いの顔を見つめあってから長次はふっと微笑んだ。 それにつられて、も顔をほころばせる。少し恥ずかしそうに、首を傾けて目を細めるその姿。それを見て、長次の大きな手がの頭を撫でる。 「もう……長次、やめてよね」 そう言っている割には、声に棘もなく微笑んでいるは決して嫌がってはいないのだろう。 この一連の行動をみて、下級生たちは胸にじわりとあったかいものが広がっていくのを感じていた。 の手が、頭上の長次の手に重なりまた、二人は微笑んだ。 長次が座り、がその隣に座る。 それが、再開の合図でもあった。 「さあ、三人ともがんばっちゃおう?」 「はい!」 「はい〜」 「はいはい」 雷蔵が、下級生に声をかけて、また黙々と作業に没頭する。 さらりさらりと筆が走る音に、時折誰かが立てる衣擦れの音ばかりが図書室の中に響いていた。 それから半刻も経ったころだろうか、ぱたりと本を重ねる音が皆の耳をうった。 ふっと、顔を上げてみると長次がいつもの仏頂面で一言「終わりだ」と告げた。 ようやく肩から力を抜いて下級生たちが「お疲れさまでした〜〜」とへばった声をだした。 くすくす笑っているは長次に代わって「はい、お疲れ様」と、返した。 「じゃあ、先輩、私たちは先に戻りますね」 「え〜、俺も先輩ともうちょっと一緒にいたいですー」 こら、と慌てて怪士丸と久作がきり丸の口を押さえて、口早にお先に失礼しますと頭を下げると、そのままきり丸を連れて廊下へと出て行った。 「それじゃあ、私も行きます。ちゃん、じゃあね」 「うん、雷蔵ばいばい」 「……」 ひらひらと手を振って、廊下に出てから雷蔵は、はたと気づいた。 しまった、机の下に忍たまの友を置きっぱなしにしていたと。 ああ、困った、どうしよう。宿題もあるし、三郎に借りるのも何か言われるか、はたまた一緒に取りに行ってやると話がややこしくなることもあるし、どうしよう……… 悪い癖が出てしまった雷蔵は、しばらくそうして、図書室の中に取りに戻るかどうするか悩んでいたが、意を決して考えを決めた。 そうだ、ちょっとだけのぞいて、邪魔にならないようだったら取りに入ってしまおう。 そろりと、戸に手をかけて細く細く隙間をあけて、目を押しあてた。 「あ」 思わず小さな声を上げてしまった。 先ほどと場所を変えず、座っている二人の距離は、さっきと比べ物にならないくらいに縮まっていた。 そして、があの幸せそうな笑みを浮かべると、長次がその大きな手でそっと彼女のあごをとらえた。 まつ毛の影が眼もとに落ちる。 うっすらと赤みを増したの頬が余計に赤く染まっていく。 またあの低い声で長次は小さくの名前を読んでから、そっと口を寄せた。 微かに聞こえる、柔らかい口付けの音。 二人が密やかに口付けを交わし、視線を合わせて微笑みあう。 「長次、大好き」 「」 そうして、二人でいる時間を慈しむように互いを抱きしめあった。 終 三万ヒットありがとうございます! 感謝感激の嵐です。 コメント「熟年夫婦のような雰囲気の二人in図書室」ということで、書かせていただきました! いかがだったでしょうか>< 投票ならびに、コメントありがとうございました!! |