堕落












































「ずっと一緒にいよう」


そう言って、竹谷はある日の手首をとらえた。
は喜んで微笑みながら頷いた。
暗転。






































ざんざんざん……
海の音。
どこだろう。
ここは、どこだろう。
海の音。
体が重く、力が入らない。
空気の底で、私の体が動かない。
海の音。
視界もぼやける。
天井?床?どちらでもいいが、ぼやけていて一向に線を結ばない。
海の……音、
頬に触れた冷たい感触。
そこから一気に覚醒が促された。


「――――」
「っ……ぁ」
「……
「ぅあ」



海の音だと思っていたのは、人の声だった。
冷たい感触が何かと、視線で探ってみると、依然ぼやけているが人の姿が。





目を凝らして見ると、ああ、なんだ。
よく見知った顔じゃないか。
からからに乾いて、うまく回らない舌で言葉を転がす。


「たぁ……け…」



だんだんと明確になってくる視界で、竹谷の笑顔が見えてきた。
ああ、よかった。
ここはどこ?
私はどうしたの?
なんで、こんなに体が重いの?
聞きたいことはたくさんあるのに、声が出ない。
ぱくぱくと唇を動かすと、頬に触れていた冷たい感触がすうっと滑ってきて唇に触れた。


「しぃー…、いいんだ。何も言うな」


なんて、穏やかな目をしているんだろう。
でも、それがどういう意味かわからずに、目で問いかける。
音ばかりがはっきりと聞こえる。
竹谷に手を伸ばした瞬間、しゃらりと澄んだ音が耳をうつ。
その音がすると、竹谷の唇がつうっと吊りあがっていった。
ああ、なんだろう。
どうしたんだろう。
何が嬉しいの?竹。


「もう、絶対離れないから」


竹谷が私に見えるように、片方の手を上げた。
すると、先ほどと同じようにしゃらりと音がするのだ。
彼の手首には、細い鎖が一本握られていた。


「ぁ」


背筋にぞっとしたものが走る。


「た、け」
、もう、離さない」


慈しむように頬をなでる彼の手に、恐怖すら覚えて、逃げようと思うのだがやはり体にねっとりと空気がまとわりつき、動くことができない。





望んでいない愛撫が、体をくすぐる。
どうしたの?どうしてしまったの?


、俺だけを見ろよ」


見ていた。という声は、出せない。
荒く胸が上下する。
怖い、どうしたの竹?
どうしたのよ。
ねえ、竹。
私の叫びは、唇からほとばしるかすれた声にしかならなかった。
細められた竹谷の目がじっと私の体を射ると、じりじりとその瞳の奥に何かが燃えている気がした。
深く、もっと深くと重ねあわされた唇から、くぐもった声が上がるのを、彼は気付いているだろうか。


、俺は愛してる。お前を愛してんだ」


私も、という声も出ずに、鼻を抜ける吐息になった。
竹谷は私のことなど何一つ考えずに、ただただ、一人で快楽を追いかけて行く。


「挿れるぞ」
「……ぁぐ」


殆ど馴らさずに突きいれられたそこが、ひきつるような痛みで咽喉がなる。
痛くて痛くて、痛くて痛くて痛くて痛くて、


「竹、や」
、」


ばたばたと私の顔に降り注いだのは、竹谷の涙だった。
泣いている。
頬を染め、腰を振りながら彼は、泣いていた。
だんだんと湿った音が聞こえてくる合間から、しゃらりしゃらりと鎖がなる。


「なんでだ…よ、


あまりにも、悲痛な声だった。
あまりにも、孤独な声だった。





体内で、熱が放たれたのを感じた。
何度も、何度も、何度も。
行為ばかりが繰り返され、痛みもそのうち忘れた。


「ん……くっぅ」
「はぁ…ぅぁ」


また、中で射精をして、ようやく竹谷は体を離した。
ぐっと、動かない両足を掴まれて開かれる。
交わっていた私の足の間を見て、満足げに彼は微笑んだ。
泣きながら、笑っていた。


「はは、すげぇ。溢れてるよ


ずるりと、中をかき回すように指を入れて中が潤っていることを確認する竹谷。
その、指一本にすらめまいがするほど敏感になっていた私は、もう恥じらいもなく声を上げた。
そして、私の上に竹谷は覆いかぶさると、嬉しそうに頬に口付けをする。


「孕んだって、いい」


俺たちの子、きっとかわいいぜ?
と、彼が心底うれしそうに囁いているのを、ぼんやりと見つめていた。
しゃらしゃらと音を立てて、竹谷と手を握り合う。
目を細めて竹谷が言う。


「ずっと、一緒にいよう」


甘く絆されていく私の心。
ようやく、声になった言葉が一つこぼれた。
それを聞くと、竹谷はそれはそれは嬉しそうにほほ笑んだ。
ああ、言えてよかった。
言えてよかった。
だんだんと遠のいて行く意識の中、胸一杯に竹谷の匂いを吸い込んだ。



「泣かないで」













―― 一緒に、堕ちたっていいから
―― あなたに泣き顔は似合わないから
―― ね、笑って。


























































三万ヒットありがとうございます!
感謝感激の嵐です。
投票ならびに、コメントありがとうございました!!























以下言い訳を少し↓
一方的に嫉妬して、一方的に狂った竹谷に
それでもいいと思ってしまう子。
竹谷は、いろんなことを勘違いして、それで行動に走るといい。
例えば、三郎とか、雷蔵とか、久々知と、ヒロインが実は出来てるとか。
そんなことは一切ないのにね。