悪戯三昧!!



















「あ、〜!」


向こうから走ってくるのは大きなウサギの耳を頭につけた綾部だった。
なんで、あんなものをつけてしかも、シャベルを抱えて走ってくるのか、私には正直理解できない。
目の前で立ち止まった綾部は手をのばして首をかしげた。


「はい、。トリックおあトリート」
「……はい?」
「おやまあ、ざんねーん。トリック〜」


謎の呪文を唱えた綾部は、ゆらゆらと揺らいでいる自分のウサギの耳を取り外すと無理やり私の頭につけてきた。
若干の抵抗をしたのだが、あんまりにも抵抗したら綾部に怒られてしまったので、しょうがなく大人しくしていた。


「はい、でーきた」


ウサギ耳をつけて満足したのか、うんうんと頷いて自分の仕事の出来を確かめる綾部。
私にこんなものをつけて何が楽しいのかわからないが、まあ綾部の謎の行動はいつものことだし、気にしないでおこう。


「ふふふ〜、かわいいねぇ。うさぎさんだ」
「いや、綾部が無理やりつけたんでしょ?それに、綾部がつけてた方がかわいかったよ?」
「さあ、うさぎさん目を閉じて?」
「え?」


ぱっと、綾部の手のひらで視界が遮られる。
ちゅう。


「なっ!!!?あ、綾部!!!?」


唇に触れた柔らかい感触!
ま、まさか今口付けした!!!?


「ふふーん、ごちそうさま〜」
「ちょ、ちょっと待てっ!!」


驚いて一瞬止まってしまったが、逃げようとする綾部の背を追いかけて走りだした。


「どわっ!!!!!!?」


急に体が沈んだと思った次の瞬間、私のからだは穴の中に落ちていた。


「いたたたた……」
「おやまあ、ちゃんと印は置いてあったのにねぇ」


上から降ってきた綾部の声はそれが最後で、どこかに逃げて行ってしまったようだった。
私は、穴の中で痛むお尻をさすりながら上を見上げた。


「あ、やべ……ふざけんじゃないわよ〜!!!穴から出してよぉおお!!」


穴はだいぶ深くまで掘られていて、どうにも自力では脱出できなさそうだった。
どうしようどうしようと、考えているうちに、上から声が降ってきた。


「おーい、誰か落ちてるのかぁ?」
「あ!は、はい!!!助けて下さい〜〜〜!!!!」
「ん?……お、か!」
「ああ!竹谷先輩!!竹谷先輩助けて下さい〜〜!!」


穴の中を覗き込んだのは、仲よくしてもらっている竹谷先輩だった!
優しい竹谷先輩はなにかと頼りになるいい先輩!
穴の中で立ち上がって、ぶんぶんと竹谷先輩に手を振った。


〜!今、縄投げるからなぁ!」
「はーい!お願いします〜!!!」


ぱらりと、降りてきた縄に私が捕まったことを竹谷先輩は確かめてからぐいっと引き上げてくれた。
体が浮遊感を感じてから、ようやく地上に出ることができた。


「ふぁ〜…竹谷先輩ありがとうございます〜」


その場にへたりと座り込んだ私に、気にするなと竹谷先輩が笑いかけた。


「おお、そうだ!忘れるところだった」
「ん?なんでしょうか?」
「とりっくおあとりーと」
「はい?」
「とりっくか!」


にかっと、微笑んだ竹谷先輩がむんずと、私の胸を掴んだ。


「ぬぁ!!!?な、何してんですか!!!!!!」
「とりっくだ!!」


爽やかに、それが当たり前だと言わんばかりにほほ笑んでくる竹谷先輩。
私は、怒っていいのか一瞬戸惑ったが、いや、これは怒ってもいいだろうと思い、がっちりと竹谷先輩の両手首をつかんだ。


「その、謎の呪文も意味わからないですし、む、胸触んないで下さい!!!」
「いいんだよ!とりっくだから、触っても!!!」
「い、意味わかんないです!って、揉まないでください!!!!!!」


幻滅した!
優しい竹谷先輩が、信頼していた竹谷先輩がこんな変態だったなんて!!
私の胸もんで楽しいのか!?
竹谷先輩よ!


だって、わざわざそんな耳つけて俺のこと誘ってたんだろ?」
「違いますから!」
「え〜……ちがうのか。残念」


しゅんと、うなだれる先輩。
あ、かわいそうかな?と、思ったが、やっぱり胸もんで来るからそうでもないと判断した。


「いいかげん、手、離してください〜〜!!!!」


思いっきり力を込めて、ようやく私の胸から竹谷先輩の手が離れた。


「竹谷……先輩〜〜〜!!!!」
「そんなに怒るなよ〜!」


笑いながら私の頭をぐしゃぐしゃとなでる竹谷先輩を睨みつけたところで、全く効果がないようだった。
これが、同学年だったら思いっきりぶん殴ってやるところだったが、相手は竹谷先輩だし、こうやって笑顔を見せられるとだんだん怒る気も失せてくるから不思議だ。


「も〜……本当、なんなんですか……あの謎の呪文」
「ん?知らないのか?」
「なにか意味があるんですか?」
「……あ!俺、用事があるんだった!!ジュンコ探さないと!ジュンコー!!」


あからさまに、白々しい逃げ方をされた。
何かあの呪文に秘密があるらしい。
なるほど、もしかしたら先にあの「とりっく」って言った方が勝ちなんだな。
あれを先に行ったらきっと、なにもされないに違いない。
よし、次に誰かに呪文を言われたらそうしよう!


「お、〜!」


私が決意を固くしていると、ちょうど文次郎先輩がこちらに走ってきた。
私の近くまで来ると、突然文次郎先輩は自分の口もとを「うぉっ」と、声を上げて押さえた。


「う、うさ耳とは……、やるな」
「あ、い、いえ、これは綾部が」
「あ、綾部か……さすが作法の血を継いでいるだけあるな」


良く分からないが、うんうんと、頷いて潮江先輩は納得したようだった。


「あー……そのだなー…
「はい」


来る……きっと、あの呪文が来る!!!


「と、」
「と?」


ごくりと、喉が鳴った。


「とりっくおあとりーと!!!!!!!」
「とりっく!!!!!!!!」


その瞬間、私の視界は赤く染まった。


!!なんて情熱的なんだ!!!!!!」
「ぎゃぁああ!!!潮江先輩は、鼻血噴き出してますよぉおおお!!!」


ぶーっと、潮江先輩は鼻血を吹きだして、息を荒くして迫ってきた。


「こ、怖い〜!!!潮江先輩来ないでぇええ!!」


思わず、逃げた。


「何言ってる〜!!!お前がとりっくを望むのなら、俺はとことんお前にとりっくしてやるぅ!」
「わーん!怖いよ〜!!」


後ろから、はあはあと、息を荒くさせて鼻血を出した潮江先輩が迫ってくる!
怖い怖い!!
恐怖で涙が滲んでくる!


ちゃん!!!!!」


もう駄目だと、思った瞬間、突然真っ白なものが前から飛んできて私のことを追いかけてきていた潮江先輩にクリーンヒットした。


「ぐはっ!!!」


うめき声が聞こえてきて、それでも怖くて走っていた私を優しく伊作先輩が抱きとめてくれた。


「い、伊作せんぱい〜〜〜」
ちゃん、だいじょうぶ?」


まるで、天使のように微笑む先輩。
きらきらと、光がそこだけさしているようだった。


「こ、怖かったです〜……」


涙を流す私を伊作先輩はよしよしと、撫でてくれた。
ああ、あったかくて、いい匂いがするなぁと、不謹慎ながらも甘えてそのまま伊作先輩の胸に顔を押しつけた私を、伊作先輩がぎゅうっと抱きしめてくれた。
ん?
伊作先輩って、こんなことする先輩だったけ?


ちゃん。うさぎさんなんだね」
「あ、はい、これ綾部が……」
「かわいいね。うさぎさん……」
「うぁ…」
「トリックオアトリート」


伊作先輩の腕に力がわずかに込められた気がした。
私は、不審に思いながらも、思わず言ってしまう。


「と、トリック?」
ちゃん」


にっこりと、笑った伊作先輩。
どうしていいのかわからない私。
うさぎの耳だけが、ふわりと揺れた。


「おりこーさん」






































カオスですね^^
深都さんのコメント「いたづらされたい」からでした!
お相手がなかったので、とりあえず一学年づつで!
なんていうか、潮江大好きです。