あとのまつり 賑わいの光が消えた後の祭りは誰もいなくて静かだった。 空っぽになった瓶や椀や皿が、明日の片づけを待つばかりで、あれほどに乗っていたお菓子も料理も何もない。 はそこにいつものくのたまの着物を身につけてそこにたたずんでいた。 しゃれっ気もなにもない、いつもの格好の自分。 ほうと、吐きだした息が白い。 「ちゃん」 すると、不意に後ろから声をかけられた。 今まで誰もいなかったはずなのに、その声とともに急に圧倒的な存在感がぞわりと背中を撫で上げた。 振り向きもしない私に、そのまま声が続ける。 声をかけられてすぐに相手が誰だかわかってしまった。 包帯で遮られた声が少しくぐもっている。 「ちゃんはこんなことに現をぬかしてて大丈夫かい?」 今日の私を見ていたとでも言うのだろうか、ちょっと咎めるような言い方だった。 後ろを振り向いて、私は思わず笑みをこぼした。 「雑渡さんこそ、ずいぶんと楽しんでたみたいですね」 あんなこと言っていたくせに、彼は人一倍この祭りを楽しんでいたと分かる格好をしていた。 ああ、いつものように全身を包帯でぐるぐる巻きにして、頭の上から下まですっぽりと真っ黒なローブをはおっていた。裏地の赤い色がつやつやと蝋燭の明かりを受けて光っていた。 手には大きな鎌。あれで、命を刈り取るのだろうか。 「こらこら、なーに笑ってるの」 きろりと片方だけの目で睨みつけると、大鎌を操って私の首筋をとらえた。 「あ、これ本物じゃないですか」 ひやりと首筋に充てられた刃の冷たさに、吹き出してしまった。 こんなところばかりこだわっていて、この人は。 「そうだ。私はプロだからね」 「ふふ、そうでした。雑渡さんはえらーい組頭さんですもんね」 「こらこら。ちゃん私のこと馬鹿にしているだろ?」 「してませんよ。ただ、私は雑渡さんのそういうところかわいいなぁって思っちゃって」 「……」 あ。 こんな年下の子供なのに雑渡さんのこと「かわいい」だなんて言っちゃった。 しまった、怒らせちゃったかなと、思わず不安に駆られて眉根を寄せた。 「あ、あの、そのごめんなさい」 「ふー……」 ふわりと、鎌の刃が半月を描いて、その代わりに私の体をとらえたのは柄の部分だった。 それが背に当たったと思った瞬間、ぐいっと体が雑渡さんの目の前まで押しやられる。 一気に距離が詰まり、鼻先が彼の胸にぶつかってしまった。 「わっ、いて」 「ちゃ〜ん、嬉しいこと言ってくれるね」 「ふぇ」 見上げた彼の顔は、さっきの衝撃でフードが取れてしまい包帯だらけになった頭が露わになっていた。 それが、まるで月の様に真っ黒な闇を背景に私の目の前にあった。 「でーも、だめだよ」 「ん、何がですか?」 「しっかり勉強して、早く一人前の忍びになってくれないと。私が君のことスカウトできないじゃないか」 「っ……なっ、なに馬鹿なこと、い、」 「それからゆっくり私に現を抜かせばいいじゃないか」 「ぬ、抜かしませんよ!それに、私タソガレドキ城に就職する気なんてないですから!」 「あれ?私がいるのに?」 首をかしげてはてなマークを飛ばす雑渡さんに、また胸がキュンと苦しくなってしまったのは秘密だ。 「まあ、どっちでもいいか。私はそろそろ行くからね」 「あ!」 包帯越しに唇を押し付けられる。 顔を真っ赤にして抵抗すると、余計に私を抱きすくめてぎゅうぎゅうと感触を焼きつけるように雑渡さんは力を強くした。 結局最後には、私が根負けして彼が気が済むまでそのままにさせてしまう。 「雑渡さーん?もう行くって言ってたじゃないですか」 「あ、忘れ物してた」 「へ?」 「トリックオアトリート」 今度は包帯を口元だけゆるめて、大きな傷が走る唇をさらけ出して、私の答えも聞かずに口付けをされた。 ぶってやろうと思って、振りあげた右手は結局空を切った。 「それじゃあ、ごちそーさま。また来るねー」 「も、もお!来なくて結構です!!!」 「ははは、そんなに楽しみされてるとまたすぐ来ちゃうぞ〜」 それでも、ばいばいと手を振られてしまうと、手を振り返してしまう自分がいて、なんだか悔しかった。 「絶対、タソガレドキになんて入らないんだから」 真っ赤な顔をしているがぽつんと、その場でうずくまった。 終 ^^ 終了した企画でしたが、ちょっとしたおけまでしたv そして、まさかのプロ忍! 初挑戦です^^ 雑渡さんはよくちゃんをスカウトしにきています^^ |