「う」 ◆ 「仙蔵なんて、大嫌い!」 「そうか」 「大嫌いなの!」 「それで?」 「絶対、もう顔なんて見たくない!」 「ほう」 「仙蔵の鬼畜!鬼!もののけ!」 「さしずめは、野生の獣だな」 私がいくら泣き叫ぼうと、仙蔵の手は止まらない。 許してくれっこないんだ。 「仙蔵やだ!大嫌い!あほ!はげろ!」 不意に掴まれた頬。 ぎゅうっと押しつぶされたほっぺたのせいで、言葉をうまくしゃべれない。 さすがに、はげは言いすぎたか。 「」 涙がこぼれるのもそのままに、仙蔵を見上げていた。 「嘘が下手だな」 至極楽しそうに笑う仙蔵は、まさに捕食者。 いや、征服者だ。 刻一刻と脱がされ続ける着物も後わずか。 「んんっ!!!?」 不意打ちにされる口付けは、ただただ翻弄されるばかり。 こちらが苦しいということも無視して、ただただ、快楽を与えられ求め続ける口付け。 歯列をなぞり、舌を絡めせあい、酸素もほとほと尽きて、目の前の仙蔵の顔すら白と黒に彩られた。 「そんなに、涎を垂らして……よっぽど私のことが好きなようだな」 「あぅ…あっ、ふぁ」 好きだと認めたくないだなんて言ったら、また仙蔵は目を細めて笑うのだろう。 / 嘘が下手だな 仙蔵 ◆ 午後の退屈な時間を持て余して、気の置けぬ友達と足先を並べてくだらないおしゃべりをしていた。 まだまだ寒さがぶり返し、夜は冷え込むことが多いが、昼間といえばこうして日向に座っているだけで体が暖かくなってくる。 頭巾も取ってしまえば黒い髪が熱を持ち、頭のてっぺんから足の指先まで温まり、とても気持ちいい。 「なー、」 「なにー?」 右に座った三郎が、退屈そうにあくびを噛み殺しながら目尻を擦った。 「暇」 「だって、雷蔵」 左に座った雷蔵に、振って見るたが返事がない。 細めていた目を開いてみると、雷蔵は目を閉じて、こっくりこっくりと舟を漕いでいた。 「ね、三郎。雷蔵寝ちゃったよ」 「んー……なんだよ、雷蔵寝ちゃったのかよー」 ゆっくりとした口調で私の言葉をそのまま繰り返す三郎も、雷蔵と同じように眠そうだった。 不機嫌な時のように、目を細めて眉をしかめている。だけど、眠いって分かるのは、唇。 片方だけ少しだけ釣りあがってる。 変な癖だと笑うと怒るから言わないけれど、自然と私の頬も緩んでいた。 「−、膝枕してー」 「えー」 「いいじゃんー、減るもんじゃないしー」 「だって、重いもん」 「ひざまくらー」 三郎と押し問答しているうちに、左肩に雷蔵の頭が倒れてきた。 それを見た三郎が、またずるいずるいと言いだしてしまう。 「ちょっと、三郎。雷蔵起きちゃうじゃん」 「じゃあ、ひざまくらしろよー!私だって眠い〜!」 「あー…もう、分かった。分かったから」 「やった〜!」 ごろんと、膝に嬉々として頭を乗せた三郎は早速、おやすみと目を閉じた。 ああ、なんだこれ。 私ばっかり重いじゃないか。 すぐに三郎の寝息が聞こえ、雷蔵の寝息がくすぐったく耳朶をくすぐる。 「あ、」 「竹谷」 そんな時に通りかかった竹谷は、私たちを見ると不機嫌そうな顔を隠しもせずに私の前でしゃがみこんだ。 「どうしたの?竹谷」 「なんだよ…これ」 指差す先には雷蔵と三郎の同じ寝顔。 「ああ、私たちラブラブだからこうして愛を育もうか?ってことになったの」 「なんだよ、ふ、二人いっぺんに?」 「そ、いっぺんに好きになっちゃったの」 急に黙ってしまった竹谷。 ああ、こうやって竹谷のことからかうの大好き。 しばらくそうして、にこにこと竹谷の反応を見ていたが、突然竹谷はまっすぐに私の目を見た。 「、好きだ。二人よりも、俺と付き合ってくれ」 「え?」 もう一度、好きだ。俺は真剣だ。と、繰り返し言葉にした竹谷。 ひどく真剣な目で竹谷が嘘をついていないだなんてすぐに分かった。 「なっ!?あ、た、竹谷」 「、俺じゃ……だめなのか?」 「ち、違くて!う、嘘だよ!?嘘!」 私の方が顔を真っ赤にさせて焦ってしまう。 逃げようにも、竹谷のまなざしからは雷蔵と三郎のせいで逃げだせない。 「え?嘘?」 大きくため息をついた竹谷は、今度は困ったような笑みを浮かべるもんだから、白い歯が眩しく日の光を受けて輝いていた。 「嘘でもそんなこというなよ」 「う」 「でも、俺がのこと好きなのは本当だからな」 逃げ場を失った私は、目の前で返事を期待顔で待っている竹谷に答えるしかないのか。 自分の心臓の音がうるさくて、死んでしまいそうだった。 / 嘘でもそんなこというなよ 竹谷 |