竹ぼうきを動かしても、動かしても、足元の落ち葉は一向にまとまる気配がない。
右から次々と新たな葉や砂利が私の足を目がけて飛んでくる。ちらちらと、どうしてか視界に入って来る私の竹ぼうき以外の、竹ぼうき。


「ちょっと、小松田ー!あんたのせいで、さっぱり落ち葉集まらないんですけど!」
「んぅー?僕のせい?あはは、ちゃんが竹ぼうき使うの下手なんだよー。ほら、貸してみてっ!」
「あ!ちょっと!引っ張らないでよ!」
「ほらほらー」


ぐいぐいと、私が持っていた竹ぼうきを取ろうと躍起になって来る小松田は、まさに困ったやつでしかない。本当に、自分の行動が親切だと思っている所が憎めもしないし、怒りもできない。
だけど、竹ぼうきを渡したら最後、このまま掃除が終わるのは日が暮れても終わらないだろう。
しょうがなく、私は必死にほうきを掴んで、精一杯叫んだ。


「ち、ちりとり!!!」
「ほえ?」
「ちりとり持ってきて!小松田、ちりとり!」
「ちりとり?」
「そう!小松田君にしかできないことだから、お願い」


一瞬、間の抜けたような顔をした後、小松田はぱっと笑顔になり大きくうなづいた。


「うん!僕にしかできないんだから、持ってこないとちゃん困っちゃうね!」
「そうそう、だから早く持ってきてくれる?」
「じゃあ、ちょっとまっててね〜」


ようやく小松田を追い払い、掃除に専念することが出来る。
きっと、小松田はちりとりを頼まれたことを忘れてどっかで騒動を起こすはずだ。その被害を受けるであろう学園の生徒たちには悪いとは思うのだが……私の、掃除の時間は守られた。
思わず、笑みがこぼれる。


「はぁー……それじゃあ、頑張ってお掃除しますか!」




























上機嫌に鼻歌交じりで竹ぼうきを動かしていると、学園の塀伝いに誰かがこちらへと向かってくるのに気づいた。じぃっと目を凝らして見ると、緑色の、それも深い緑色の忍び装束。
向うも、こちらに気付いているのかずかずかと何の迷いもなく歩いてくる。
私は事務員を務めているおかげもあって、学園の生徒たちの顔と名前は一致している。
そのおかげで、顔の判別が出来るくらいにその子が近付いたときに誰だかすぐに分かった。


「あ!文次郎!!」


相変わらず、眉間にしわを寄せた文次郎に手を振るのに今日に限って手を振り返してくれない。
一体全体どうしたのだろう。
手を止めて、文次郎が来るのを待っていると、文次郎は唇を真一文に結んで私の前に立った。
小首をかしげてみるのだが、文次郎は何もしゃべらない。
ただ、なんとなくいつもより強張った顔でまじまじと私のことを見ていた。


「なによ、文次郎。どうかしたの?」
「………」
「なんか、やなことでもあったの?撫でてあげようか?」


自分よりも背の高い相手を捕まえておいてこんな事を言うのもなんだが、なにぶん自分の方が年上という自負からそんなことを言ってしまう。
さやさやと、葉の擦れる音がやけに鮮明に聞こえる程に静かだった。


「あ!わかった!なんか学園長先生にまた悪戯したんでしょ?しょうがないな、一人で言いに行けないなら、私も一緒に謝ってあげようか?」


そうだ、きっとそうに違いない。私は学園長先生によくしてもらってるから、きっと大丈夫。学園長だって、みんなのこと大好きだから、ちょっぴり行き過ぎた悪戯だって最後は笑って許してくれるんだから。
だから、さ。
文次郎、そんな顔しないでよ。
私は、忍者じゃないから、皆みたいに心まで読めないんだよ。


「ね?文次郎、元気出してよ」
、さん」
「ん?」


ようやく口を開いてくれたと、嬉しくなり笑顔で返事をした。
急に、強い風が頬をかすめた。
熱い、風。
思わず、息をのんだ。
カタンと、音を立てて竹ぼうきが地面に落ちる。


「あんたが思ってるほどいつまでもガキじゃねぇ」
「え」


切羽つまった声が、耳元で低く囁く。
文次郎の肩越しに見える、学園の塀が白く白く続いていた。
私の肩越しに、文次郎も同じ物を見ているのかな。
なぜか、胸が苦しくて何も言えない。


さん……好きだ」



























あ「あんたが思ってるほど俺はいつまでもガキじゃねぇ」