お わざと、とってもわざとなの。 「ねえ、伊作」 「ん?ちゃんなに?」 「ちょっと、さ、相談があるんだけど」 「なあに?」 隣に座った伊作の耳元にそっと、唇を寄せる。 伊作の腕に、ちょっとだけ胸が触れる程度に腕を寄せれば、それを気にして少しだけ伊作の顔が赤くなった。 ちらりと、視線だけで向かい側に座っている留の方を、見てみると案の定なんだか、面白くないって顔をしている留がこっちを睨んでいた。 あらら、あんなに睨んでると、眉間にしわ寄っちゃうよ? 伊作へは、本当は大した相談も話もない。 だけど、留には聞こえないように伊作にだけ囁く。 「ねえ、今度一緒にどこか出かける?」 「え?だって、ちゃん」 「それとも、私薬学苦手だから教えてほしいな」 「え、あ…私は、別にいいけど」 戸惑いながら、留の方へと目くばせをするのを無視して、また少しだけ距離を詰める。 今度は、絶対に胸が触っちゃてるけど、気にせずずいずいと近寄っていくと…… 「!」 ほら、来た。 「なあに?留」 「こっちこい」 「え?なあに?」 白々しい態度をとっているのに、また腹を立てているのか、ちょっと唇も突き出している。 掴まれた手首が、ほんの少しだけ痛い。 嬉しい。 必死に唇に昇ってきそうな笑みを隠しながら、困った表情を作って伊作にばいばいと手を振った。 それすら気に食わなかったのか、留は僅かに足を速めた。 私は留の後頭部を、次こそは微笑みながら見つめる。 ああ、こんなにも心が浮き立つのは留の前だけだよ。 「」 「ふぁ、ふょふふぇふぁん」 ほっぺたを留に両手ではさみこまれて、ぎゅうっと押しつぶされる。 きっと、今私の顔はとっても不細工なはずなのに、まっすぐに見つめてくる留。 こんな顔、本当は見せたくないけど、留だから見せても平気。 留三郎の名前を読んでみても、やっぱり留の手のせいで自分でも変な声が出てしまった。 ふっと、微笑む留。 すごく、それだけで私たちの間の空気が和らぐ。 「、あんまり伊作にくっつくなよ」 「ふぇんむふぁふぁ」 「気が気じゃないんだ」 くつくつと、咽喉の奥で苦笑する留しか、私には見えない。 「俺以外の男になんて惚れさせない」 ふっと留の手の力が抜けて、頬を包み込まれたまま口付けされた。 甘くて、くすぐったい口付け。 「、俺から目離すなよ?」 返事の代わりに、私は留の首筋に腕を絡ませた。 「留、だーいすき!」 ちゅ 終 お 「俺以外の男になんて惚れさせない」 |