う 猪突猛進、一回信じ込んだら周りが見えない。そんな性格だったのか……今さらながらに驚いた。 久しぶりに顔を合わせた瞬間から、何やら違和感を感じていたが、その予感は当たっていたようだった。 「!」 「ぎゃ!?」 竹谷と話しながら歩いていると、油断していたこともあって容易く私の体は後ろから抱きすくめられていた。 色気も何もない声に驚いて、竹谷がまじまじとこちらを見ているが、当の本人である私はそれどころじゃない。 「ま、まさか……久々知兵助!?」 「〜〜!!!どうしてだよおおお!どうして私を置いて行って、竹谷と一緒に行っちゃうんだよ!」 「ばっ、馬鹿!放してよ!別に、あんたと約束なんてしてないでしょ!?」 「へ、兵助!どうしたんだよ!」 「ひどい!ひどすぎる!罰として、豆腐を頭からぶっかける!」 「はあ!?そんなこと誰が罰として受けるのよ!?」 「だ!」 「きもっ!」 火事場の馬鹿力にも近いものを発揮して、思いっきり久々知の腕を跳ねのけた。 肩で息をする私に向かって、うるりと目をうるませて、頬上で長い睫毛の影を震わせる久々知がしおらしく唇を開いた。 「………どうしてだ…どうして、私に冷たいんだ」 「それは、久々知が久々知だからだよ」 「…どうしちまったんだよ、兵助」 振り向きながらも、久々知への警戒は怠らずに竹谷へ事情を説明した。 最近、久々知にしつこく付きまとわれていると。 と、その瞬間殺気を感じ取った私はひらりと、身をかわした。 すると、丁度私の前にいた竹谷の頭に豆腐一丁降りそそいだ。 「ぬわっ!!?」 「くそっ!!どうしてよけるんだ!」 「だって、私がこの豆腐をかぶったら、久々知はどうするの?」 「な、舐める」 頬を染めて、もじもじしながら言わないで。 あなたの頭の中で、私がどんなふうに変換されているのかちょっと予想がついてしまうから怖い。 実習で久々に組んだ久々知兵助は、どうやら私に一目ぼれをしたそうです。 本人が、声高にその瞬間に叫んでいたので、たぶん間違いありません。 「げ」 思わず、そう声が出てしまうのもしょうがない。 実習のペアを決めるくじを片手に、相手を探しているときに久々知の持っていた札が見えてしまったのだ。 なんという、運命の悪戯。 私のペアは久々知兵助の様だ。 つうっと、嫌な汗が頬をすべるもんだから、そっと近くにいた友達に駈けよった。 理由は特に云わずに持っていたくじを変えてもらうように交渉し、何とか成功。 安心して、相手を探そうとした時だった。 「!」 嬉しそうな声が後ろから迫ってきた。 振り返って見ると、まるで子犬のように笑顔前回で久々知がこちらへと走ってきた。 「のくじは!?私は…」 「あ!私のと一緒だね!よろしくね久々知君」 くのいちの強かさとでもいおうか、普段の友達の表情からは一切見ることが出来ない女の顔で、彼女は久々知の腕をとった。 なにやら、複雑そうな顔をしている久々知だったが、私は私で今日一日二人きりで彼と行動するのは勘弁願いたい。 「ああ、じゃあ私はペアの人を探さなきゃいけないから!じゃあね、久々知!」 ひらひらと、手を振って人ごみの中に姿を紛れ込ませた。 「あ、雷蔵!」 「ん?ちゃん!」 鉢屋と雷蔵の二人がたむろっているのを見つけて、私は走り寄った。 二人の札を見せてもらい、自分のかえてもらった札を確認する。 「あ、それ竹谷が対持ってなかったけ?」 「え?本当?」 「うわー、じゃあ、竹谷とが組むのかよ。せいぜい…私に騙されないように注意しろよな」 「う……わ、私たちだって二人だけの暗号とか考えて鉢屋に騙されないようにするもん!」 「……なるほどねー」 「ちゃん、だめだよー!それじゃあ、三郎に作戦ばれちゃってるよ」 「あ」 ケラケラと笑われて、でこぴんまでされてしまった私は頬を膨らませる。 それを見て、また鉢屋にふぐだなんだのと馬鹿にされてしまい、三人で笑っていた。 すると、突然手首を掴まれた。 「え?久々知?」 「!私と組んで!」 「なんだよ、兵助。お前の持ってる札のと対じゃないじゃん」 「そうだけど、がいいんだ!」 「いやいや、だめだろ。運命だと思って諦めろよ」 からかうように笑いながら三郎が言うと、やけに真剣な顔をして久々知がはっきりと言い放った。 「運命なんて、そんな簡単な言葉でを諦められるわけがない」 ぽかーんと、している二人を他所に久々知は私の腕を引いてその場を離れた。 私は、どうしようもなく……真赤になっていた。 終 う 「運命なんて、そんな簡単な言葉で君を諦められるわけがない」 |