え 「ちゃん」 ぼんやりと、紙を束ねては紐でくくっては帳面を作っていた。 声がした方を緩慢に振り向いてみると、そこにはいつもの笑顔を浮かべている雷蔵が立っていた。 どうして、ここにいるのだろう。いつの間に部屋に入ってきたのだろうと、ぼんやりと考えているのだが、やはり、うやむやな空気にまぎれた思考はどうにもまとまることがない。 「ね、外に出ようよ」 釣られた様に、雷蔵と同じ笑みを浮かべて手を伸ばした。 すると、雷蔵は私の手に触れる。 暖かいその手のせいで、自分の手がとても冷たかったことに気付いた。 それでも、だからどうしようとも考えずに雷蔵の手を握った。 「ちゃん、出ようよ」 私は、 「ねえ、雷蔵」 掴んだその手を引き寄せた。 一瞬驚いて目を見開くが、雷蔵はそのまま私の上に倒れ込んだ。 「抱いて」 じっと、丸い彼の目が私のことを見つめてから、こくりと頷いた。 私は気付いていなかった。知らず知らず自分の唇に力が入っていたことに。 私の顔は、強張っていた。 まだ、日も高いくせに、私たちの体は熱を発して止まらない。 普段の雷蔵から想像もできないほどに、荒々しい口付けが降りそそぐ。 互いに、目を閉じることもなくじっと視線が交り合う。 言葉少なに、吐息をつく。 体の芯が、苦しい。 「雷蔵」 「ちゃんっ」 切羽つまった声で、微笑む雷蔵。 あんまりにも優しすぎて、どうしていいかわからないよ。 「僕は、僕だよ」 「うん」 優しい律動が広がるたびに、記憶がよみがえる癖に拡散していく。 まるで、浄化。 雷蔵の輪郭を確かめるように頬に添えた手を、上から包み込んで、口付けをまた一つ。 これは、雷蔵だ。 他の、誰でもない。 だから、大丈夫。 「ちゃんは、ちゃんだよ」 「……う、ん」 涙が交った声に気付かれてしまったかな。 ねえ、もっとあなたを感じさせて。 「永遠がずっと続けばいいのにね」 「……うん」 硬く、握りしめあった手が暖かい。 雷蔵だってわかってるはずなのに、そんな言葉を言わせてしまった自分。 だけど、その優しさに甘えた。 生まれたままの肌を擦り合わせて、腕の中で泣いてしまう。 そんな、弱くて卑怯な私に雷蔵は優しく囁く。 「大丈夫、大丈夫だよ」 「らいぞぉ」 「ちゃん、どんな君だって僕は大好きだよ」 今だけだっていい。 その言葉に縋りつかせて。 終 え 「永遠がずっと続けばいいのにね」 |