初恋
































十……九……


背を木の幹に預けて、眼の上を滑るだけの文章を追っていく。
入ってこない。こんなこと今までなかった。
おかしい。おかしすぎる。
しかし、その理由も学園一と噂される私としては明白に上から下まで理解しているので、焦ることなどない……はずだった。





さらりと風が吹けば、とりわけ念入りに手入れをした髪が音もなく舞い上がり柔らかい残像を瞳の中に残しながら、また元の場所に戻った。


七、六、ごお


ここまで来ると、静かに心臓が早くなってくる。さすがの天才と謳われた私でも心音をどうにかする術はまだ身につけてはいないのだ。
徐々に体内を巡る血液は異常なる興奮を満たし始める。


よん、さん、にい


さすが私。図ったように今、スタートラインに立っている。


いち!!!!!


「あ、滝。また読書?」


ああ、もうその声ったら、私の中でいつまでも響いてほしい。
するりと現れて、私のことが好きだから声を必ずかけて。
もう、大好きで大好きで、大好きで!!


「ああ、もたまには読書でもしたらいいんじゃないのか?」
「だって、一人で本読んでても面白くないよ」


体が知らず知らず宙に浮いているみたいなんだよ!
私のパッションは止まる所を知らない。


「そうしたら」


そう、君が君が……君こそが
パタンと、読んでもいなかった本を閉じる。


「私と一緒に読書するか?」


君だけが真実!最高の女の子!
私のものにしたいしたいしたい、甘く香ってくるシャンプーは何を使ってるの?
キラキラ光るその髪の毛はどんなリンスで洗ってるの?
むしろ、どんな格好でお風呂に入ってるの、できればと一緒にお風呂にも入りたい。
君は最高すぎる。私は君のことが好きでしょうがないんだ。
その手を握りたいのに!


「やだ」


にっこり笑ってに言われてしまうと、絶望の淵に一気に追いやられる。
誰に言われたってそんな一言笑って返せるのに、に言われただけで一気に悲しさが募ってしまって。
私のことなんて嫌いなの?だなんて、口にしてしまいそうになって、唇を噛んでしまう。
それなのに、はぎゅうっと両手で私の手を握って。


「でも、滝と一緒におしゃべりはしたいかな?」
「あ、ああ」
「滝は嫌?」
「嫌ではないが、は退屈じゃないのか?私と喋って……」
「え?面白いよ?滝すっごいキラキラしてるし!」
「っっ〜〜〜!私と忍術の出会いから教えてやろう!」








ああ、それは確かに初恋だった。



























短文