アメフラシ




































外に出ると、雨が降っていた。
胸に抱いた教科書が濡れてしまう…。
さあさあと、激しくもない癖にこのまま外へ飛び出せば全身濡れてしまうのが分かりきっているような雨。
うっかりとしていたから、もう小屋の中に同じくのたまの姿はない。
どうしようか。
こんな梅雨時に授業をする先生たちを恨めしく思ってしまうのは許してほしい。
しょうがないだろう。たとえ忍びになるんだろうと言われても、雨に濡れたくないものは濡れたくないんだから。
小さくため息をついて、軒下から落ちてくる雨だれを恨めしく睨みつけた。
そもそも、特別授業をするから、


「あれ?


振り向くと、同級の忍たまの久々知が立っていた。


「あれ、久々知もまだ残ってたの?」
「ああ、ちょっとまとめておきたい所があってさ」


ひらひらと教科書を久々知が降ると、めくれた頁の合間合間に何やら書かれているのがちらりと垣間見えた。
それに比べて真っ白な自分の教科書が少々恥ずかしくも思え、手に力が入ってしまった。


「あー……やっぱ、雨降ったか」
「うんー、私なんて傘持ってないから止むまで待つしかないかなぁ」
「お前馬鹿か?梅雨だぞ梅雨。止むわけないだろ」
「……だよねー」


がっくしと肩を落としてため息をつくと、そんな私が面白かったのか久々知は声を上げて笑った。


「じゃあ、一緒に入っていくか?」


ありがとうと、口にしようとした瞬間だった。
突然後ろから走ってきた誰かに、腕を掴まれて引っ張られる。


「わっ!?」
「ごめん!兵助!」
「あ!ちょ、お前ら!」


ぐんぐんと、引っ張られる体。転ばないように必死に足を前へ前へと突きだす。
引っ張られた時に教科書を落としてきてしまった。
そんなこと気にする余裕もなく、目が回りそうなくらいにくらくらする。
頬を濡らしていく水滴すら、熱い気がする。


「た、竹谷!!」
「ああああー!!!ごめん!」


ごめんごめんと、繰り返しながらも竹谷は走る速度を緩める気配は全くない。
雨の中、疾走していく私たち。
もう、雨に濡れるとか、気にならないくらいに掴まれた手首にばっかり意識が集中してしまう。



「た、竹谷、何やって」
「ごめん!マジでごめん!」
「だ、だから、止ま」
「俺、嫌なんだ!が……が久々知と相合傘すんの!」
「なッ!!?」


前を走る竹谷の背中。見慣れたぼさぼさの髪の毛が揺れるのと一緒に、一気に顔が熱くなる。


「な、なに言って」
「あーもー!!好きだーーーー!!!」
「っっっ!!!」


絶句もいい所だ。動かす唇からは言葉が出てこないのに、竹谷は好きだ!ともう一度叫ぶし、足はもつれそうになるし、雨は容赦なく私たちを濡らしていく。
やっと止まった時、私は息も絶え絶えなのに、竹谷はまっすぐに私を見て困ったように笑った。


「ごめん、好きだ」


謝らなくったっていいのに、竹谷は私のことを抱きしめた。
返事をする暇ももらえずに、雨に濡れた。
だけど、それでよかった。





きっと、今声を出したらきっとまともに喋れない。


「好きだ!」


竹谷もきっと同じに違いない。
想いがどんどん加速していくばかりで、言葉なんて追いつかない。