コンデスミルクをあげる 鼻の中を通って来る匂いだけでも、それが相当甘いことがわかった。 だからと言って、警戒心を解くわけではないし、近付こうとも思わない。 竹谷がそれを片手に満面の笑みを浮かべているのならば、なおさらだ。 「どうしたー?」 「むしろ、どうしかしてるのは竹谷の方だよ?」 「そんなことない!」 胸を張って言われても、怪しいのには変わりない。 どうしようかと思案しているうちに、じりじりと部屋の隅へと追い詰められている自分がいた。 しまった。しまった。どうしよう。 「ー」 だけど、大好きな竹谷にはやっぱり弱いのだったりする。 謎のそれを片手にした竹谷にまんまとのしかかられて、甘ったるい匂いと竹谷の香りで息苦しいけれど、あんまりにも嬉しそうに頬ずりしてくるもんだからしぶしぶながらも口を開いた。 本当は、その唇の端がちょっとだけ上がってるのに気付いて欲しいんだよ、竹谷。 「もー!竹谷、その白いのなに?」 「んー?これ?これは練乳だよ」 「ああ、なるほど」 木の器で揺らいでいたから、分からなかったがそう言われてみればそうだ。 白くて、どろどろで、甘ったるい匂いのそれ。 苺につけて食べるとおいしいよね。 「で、なんで練乳なんて持ってるの?」 「そりゃもちろん、食べるために決まってるだろ」 「は?」 竹谷は器を片手に私の上にのしかかったまま、確かにそう言った。 そう言い放った。 何をと、言おうと思った私の口から飛び出したのは、自分でも恥ずかしくなる甲高い声だった。 竹谷の舌が、れろりと音を立てて首筋を舐めあげた。 「頂きます」 「やっ、ま、ちょっと!」 こんな時、私はつくづく竹谷は器用だと思い知らされる。 背後から着物を引っ張られたと思った時には、竹谷のごつごつとした手がわき腹を撫で上げていて、そのまま竹谷の体に押しつぶされるように愛撫された。 誰かが見ていたら、獣に食われているように見えるんじゃないか、これ。 そんな間抜けなことを考えてしまうほど余裕もないけれど、私は意味もない声を上げながら抵抗してみた。 しかし、片手にもった練乳をこぼすこともなく、彼の手は胸へと触れてきた。 「ふぁっ!や、やめて!!!やだっていってるでしょ!!」 「なんだよー、、まだ気にしてんのか?」 「う、うるさい!」 胸が小さいだなんて、誰が言い出したんだろう。 みんな一緒に殆ど凹凸なんてない体で入学して、あっという間に差がついた。 日に日に膨らんでいく柔らかな友達の体と、変わらない私の体。 悔し涙も流した日もあったが、みんながいっそ気持ちいくらいに見せびらかせてくれたので、そのうち飽きて気にもならなくなった。 だけど、そうやって笑っているうちはよかった。 残念ながら、どんな星廻りなのか、未だ胸がぺったんこの私は、女の子の柔らかい胸が大好きだと定評がある竹谷君とお付き合いすることになった。 付き合うと決めた日に、その衝撃的事実を三郎君に聞いた私は、思わず三郎君の頭を殴っていた。 三郎が非常に痛がっていたので、夢じゃないと気づいたほどだ。 なんてこったい。 お―マイ仏。私の胸を見て下さい。ぺったんこじゃないですか。 しまったああああ!と、うずくまる私を指さして笑った三郎をとりあえず、もう一度殴ってから竹谷にそそくさと、別れを告げに言った。 そんな私に堂々と「大丈夫だ!俺は胸でのことを選んだんじゃない!」とか言ってくれて、惚れなおして、そのままうっかり肌を合わせ、竹谷は寝言で「うーん、おっぱい!」と言ってくれたもんだから、私の劣等感が完全に下を向いてしまったのであった。 それでも、竹谷はなんだかんだ言って私のことをほっておいてくれない。 こんなにぺったんこの胸を触って何が楽しいのやら。 やれやれだぜ。 だんなんて、余裕ぶってる私の上で声を押し殺している竹谷が、揺れるたびに私まで一緒に揺れてしまう。 断じて、竹谷が指先で胸に申し訳程度についてるそこを触ってきているからではない。 「はっ、あぅ……」 「ほんと、はかわいいなぁ」 「や、うっさい…うぅ…」 「はいはい、ちゃーん、脱ぐぞー?」 「ぎゃー!変態!脱ぐっていうか、脱がしむがむが」 きゅうきゅうと、摘まみあげられていると不思議なもんで、ピリピリと体がむず痒くなってくる。 その感覚に戸惑っていると、着物をたくしあげられて両腕を上げた状態で、まんまと竹谷の思い通りの格好になっている自分がいた。 腕の変な場所で着物を止められたから、腕を自由に動かすこともできない。 「お、今日もかわいいく元気なだな」 「う、うざ!竹谷なんて嫌いだ!」 胸をガン見しながら、胸にそう話しかけてる竹谷なんて嫌いだ ただでさえ気にしているのに、泣きたくなるぐらいに苦しくなる。 それとも、私がいつだってそうされると泣きたくなるのを分かっててやっているのなら竹谷は相当ひねくれた変態だ。 「いいよ、俺は大好きだからさ」 「う」 やけに真面目腐った顔できゅうに言われるとどきりと、心臓が音を立てる。 計算ずくなのか、天然なのか。だけど、そんな竹谷が 「ぎゃー!」 こ、このばか、わ、私の胸に、おっぱいに、練乳垂らしやがった!!!!! 意味わかんない! どろりと、おもな主成分糖分のそれが奇妙の重さを持って私の胸を垂れていく。 生ぬるさと、甘ったるい匂いでまた泣きそうになる。 なのに、竹谷といえば笑みをますます深くして言い放った。 「苺」 きもい。 「あっ、ぅい、やっ……」 「ん、ふ、うめぇ」 ぺろぺろと、舌先をとがらせて何度も掬いあげられる練乳。 赤い先端が現れたと思えば、また白く塗りつぶされて、舐めあげられて、紅くなる。 「や、はぅ、んんん!!」 「ほーら、唇かむなって」 「ふぁ、ぅぅん」 「すげぇ、うまいし、かわいい」 こんな練乳なんかよりも、甘く甘く竹谷がって言ってくれるから、きゅんと、体が疼く。 ぺっちゃんこのおっぱいを舐められてるからじゃない。 竹谷が、名前、呼んでくれるから。 「それに、大丈夫だよ。のオッパイ、俺がそのうちおっきくしてやるから」 「なるわけねーだろ」 その瞬間だけ、やけに冷静に返してしまったが、また楽しそうに笑いながら竹谷に胸に吸いつかれてしまうと、恥ずかしさと気持ちよさがめちゃめちゃに頭の中を練乳みたいにぐちゃぐちゃにしていった。 ぐるぐるの、甘ったるい、むせかえって、気持ちが悪くなるほどの大恋愛ってやつなのかもしれない。 それでなきゃ、竹谷のことがこんなに欲しいって思うなんてないはずだから。 「竹谷、ほしぃ……よぉ」 「ようやく素直になったな?」 「ぅぅうう……」 「泣くなよ、ほら、な?」 竹谷がしてくれた、とびきり濃厚な口付けは練乳味だった。 まさか、竹谷の宣言通り、友達がうらやむほどのおっぱいに私が成長するのはまた、別の話だったりする。 おそるべし、竹谷。 終 あー、楽しかった。 |