三郎の「ただいま隠れ中」の続きっぽい感じになっています。















的中






































なにやら騒がしい中庭が私の好奇心をくすぐっている。
一年生たちのにぎやかな声に興味深々に近寄っていけば、よい子の一年生たちは私に気付いてきゃあきゃあと声を上げだした。


「あ!先輩だ!」
「わぁ!せんぱーい!」
先輩!大変なんです!」
「そうそう、大変なんっすよー!」


まるで親鳥を見つけた雛のようにぴちくりぴーぴーと、私の周りに群がって一年生たちは口々に「大変大変」とばかり繰り返すだけで、一体ぜんたいなにが大変なのかが分からない。
思わず苦笑してしまう。


「はいはい、大変なのはわかったけど、みんながそうやっていっぺんに話したら分からないよ?
 誰か、一人ずつ話してね?」
「「「「「「はーい」」」」」」」


元気よく手を上げて返事をするこの子たちは、本当かわいい。


「はにゃ〜、せんぱーい、苦しいですよー!」
「あ!喜三太ごめんね。あんまりにもみんながかわいいから」
「ほえ?そうなんですかぁ?」
「ねえねえ!先輩聞いてくださいよ!」
「おっと……乱太郎、そんなに引っ張らなくっても聞くってば〜」


顔が緩みっぱなしの私の着物を後ろからぐいぐい引っ張って来る乱太郎から、ようやくこの騒ぎが何かが聴けそうだ。


先輩!大変なんです!」
「うん!」
「…先輩、頭なでるのやめてもらえます?」
「あ!ごめんごめん!」
「あのですね…ひっじょーに言いにくいんですが……」
「ん?」


一斉にさっきまでの元気の良さがどこに行ってしまったのか、みんな私と目を合わせないように下をうつ向いてしまった。
その中で、乱太郎だけが私の顔をまっすぐに見ている。
え?なに?そんなに大変なことなの?


「あの、その………竹谷先輩のことなんですけど」
「………竹?竹がどうかしたの!?怪我したとか!?」
「あわわわわわ!せせせ、せんぱい!そんなに振らなくっても言いますか〜!」


予想外の名前が飛び出したことにより、完全に取り乱してしまった。
がくがくと乱太郎の両肩を掴んで揺さぶるのを、他の子が背中に腰に、腹にひっついてやめさせるまで私は無茶苦茶に取り乱していた。
は組群がられて、取り押さえられた私にぜーぜー言いながら乱太郎が話してくれた。


「あ、あのですね……竹谷先輩なんですけど……実はさっき」













































鏡の中の自分とにらめっこ。
長いまつげに、ちょっと太めの眉毛。
髪の毛は長く癖っ毛風に。


「……できた」


見慣れた顔が鏡の向こうからこっちを見つめ返していた。
その顔に向かって一人宣戦布告。


「見てなさいよ……兵助。あんたに絶対に負けないんだから!」


ずびしっ!と、指を突き付けて不敵に笑い返してくる奴の顔が更に私の中の炎を燃え上がらせた。
押し入れの行李の中から、五年生の装束を出して身につければ準備万端。
さあ、いざ行かん!乙女の戦へ!!!!











































竹谷はごろりと、部屋の中であおむけに倒れ込んだ。
本当に、大変な目にあった。
いつもの三郎の悪戯にしても、今回は度が過ぎていた。
よりによって、問題を引き寄せる子ばっかり集まっている一年は組の目の前で、自分の変装をした三郎が久々知を押し倒していたのを見つけた時は背筋が凍った。
慌てて自分が行く前に、久々知が三郎をひっぱたいたせいもあり、完全に一年は三郎を俺だと信じ込んでしまったし、自分が出て行っても「ホモだホモだ」と嬉々として騒いでしまい、一向には組は竹谷の声を聞かなかった。
頭に血が上って、また雷蔵の顔に戻った三郎とのとんでもない追いかけっこ。
逃げ慣れているせいで、あっという間にどこかに姿をくらました三郎を探して、もうへとへとだった。


「……あー!!!くそっ!」


ふっと、竹谷の頭の中にさっき見てしまった光景がよぎる。
ほのかに顔が赤く染まり、竹谷はそれを忘れようと頭をぐしゃぐしゃと掻き毟った。
顔を両手で覆って、忘れようと努めているとき、不意に外から声がかかった。


「竹谷ー?入っていいか?」
「ん?おお。兵助どうかしたか?」


竹谷は顔を向けずとも、声でそれが久々知と分かり返事をした。
久々知と少し話でもすれば忘れられるかなと、竹谷は頬の熱を取り払うかのようにごしごしと擦ってから上体を起こした。
後ろ手に戸を閉めて、隣に座った兵助を見る。
なにやら、どことなく落着きがないように見えるが、それは自分も同じだった。


「あー……その、兵助。なんか、わりぃな」
「え!?あ、べ、別に」
「まあ、俺もしっかり被害者だけどさ」
「え?あ、う、うん!」
「だけどよ、なんか……あー、本当ごめんな」
「………うん」


ついつい歯切れが悪くなってしまう。兵助にしたって、は組のあいつらに何をこれから言いふらされるのか分かったもんじゃないし。
たとえ自分が悪いんじゃないって分かっていても、申し訳なくなってしまった。


「あ、あのよ…竹谷」
「ん?」


そこで、感じた違和感。
あれ?兵助ってこんなんだったけ?と、竹谷は心中で首を傾げた。
いつもの、あっけらかんとした感じがなく、なんていうか……

きらきらしてる?


「そ、その……一個聞きたいことあるんだけど…いいか?」


遠慮がちに言葉をぽつりぽつりと紡ぐ目の前の友人の顔から、なぜだか目を離せない竹谷。
こいつの唇って、こんなに赤かったけ?
なんか、柔らかそうだなぁ。
さっき、変なもの見たせいだ。そうだそうだと、平静を装いながら竹谷は笑顔を作る。


「お、おお。いいぜ」
「竹谷は、俺のこと……好きか?」
「はぁ?何言ってんだよ。好きだけど?」


じっと、目を見つめて話してくる久々知に気押され、竹谷は後ろに少しのけぞった。
そこに、ずいっと体を近付ける久々知。


「じゃ、じゃあ!私が女だったらどうする!?」
「は?」


呆気にとられた。
突然何を言い出すんだろうか。
笑っていい所なのかと、竹谷はちょっと悩んだが、久々知の表情はいたって真剣そのものだった。
口をつぐんでいると、久々知は自分の上着を袴から引っ張り出し、裾から手を突っ込んだ。


「んっ」


どきりと、心臓がとび跳ねる。
竹谷の頭の中に忘れようとしていた光景がふっと、蘇ってしまっていた。
しゅるりと、布の擦れる音がして、胸元から久々知が引っ張り出したのは長い長いサラシ。
ほのかに、頬を染めた久々知がそっと固まっている竹谷の手を取った。
そして、そのまま竹谷の手を自分の胸へと導く。


「ど、どうする?竹谷」
「おっ、あっ!?え!?ええ!?」


あったかい、柔らかいぬくもりが手の中にあった。
竹谷の手は久々知の手によって、彼の胸へと押し付けられていた。


「え!!!?ええええ!?はぁ!?」


確かに、手の中にあるのはおっぱいだ。
おっぱいすぎるおっぱいだ。
柔らかいし、あったかいし、むにゅむにゅとした弾力が掌に伝わってくる。
胸と、久々知の顔を見比べる竹谷。


「ど、どうする…竹」


ごくりと、久々知の咽喉が上下するのをじっと、竹谷は見つめてしまった。
首筋を、そっと汗が一筋流れ落ちて行った。


「あっ!?……んっ、ぅ」
「どうして…欲しい?」


突然、竹谷の体が久々知の体を押し倒し、馬乗りになる。
以前彼の手の中には柔らかなふくらみが収まり、竹谷の手の動きに合わせてむにむにと形を変えている。


「ひゃっ、あ…んっ」


必死に唇を噛み、声を押し殺すのを上から悠々と見下ろす竹谷。


「……声、出せよ。感じてるんだろ?」


指先で、ツンと布を押し上げているふくらみを摘まんでやると、股の間でびくびくと体が震える。
そのまま、指で刺激しながら竹谷は白い首に顔を寄せた。
舌をたっぷりと使って舐めあげると、思った以上に反応が返ってきて、自分と同じように興奮しているのが手に取るようにわかった。
わざと、下半身の熱を押し付けるように当て、そっと耳元で囁いた。


「だけどさ、その顔は……気持ちわりぃよ」
「えっ……」


びくりと、固まる体。
見開く瞳。
続けられる言葉。


、意地悪しないでくれよ」
「………うー、お、俺は兵助だ」
「違うよ。このおっぱいは……」
「あっ!!?や、ば、馬鹿!!!」
のおっぱいなんだよな〜」


ばっと布をはぎ取られ、露わになった胸に顔を寄せて、頬ずりする竹谷の頭をぽかりとの手が叩いた。


「でも、兵助の顔じゃ気持ち悪いから、それ取れよー」
「……だ、だって!竹は兵助がいいんでしょ!?」
「はぁ?」


決して胸から顔を離さず見上げる兵助の目にうるっと涙がたまる。
驚いて、の肩を掴むとぽろぽろと涙がこぼれていく。


「だ、だってー、竹谷はホモなんでしょ!わ、私よりも確かに兵助の方が美人かもしれないし!」
「な、何言ってんだよ!!」
「わーん!私を捨てないでよ!竹谷の馬鹿ぁ!!!私女だけど、男になるからー!」
「ぬあー!と、とりあえずその変装を取れ!」


嫌がるの変装をどうにか取ると、用心のためだったのか今度は雷蔵の顔が出てきたがそれもそれで大変不気味だったので、取ってしまうとようやくの顔が出てきた。


「って、俺がホモって誰から聞いた!?」
「やっぱりホモなんだー!」
「いや!違うって!落ち着け!?」


ぎゅうっと、竹谷はのことを抱きしめた。
最初は逃げようとしているのかもがいていたが、ようやく大人しくなったは、涙声でぽつりぽつりと乱太郎たちから聞いた話を口にした。
竹谷がホモだと。


「はぁー………三郎、あとで覚悟しておけ」
「え?三郎も狙ってるの?」
「違うって………あのなぁ、


体を離して、大きな両手でのほっぺたを包み込む。


「なによ…」
「俺が好きなのは、だから。な?心配しなくったって俺はお前にぞっこんなの」
「……あ、や、う」


顔が真っ赤になるを見て竹谷は微笑む。


「俺がホモなわけないだろ?こんなにに参ってるのに」
「ば、ばか!」
「じゃあ、キスしていいか?」


答えを聞く前に竹谷はの唇を奪った。


「……た、竹」
「ん?」
「私も、大好き」
〜〜!!!」
「ぎゃあ!当たってる!!」


ごろんと、押しつぶされてが竹谷の下でもがく。
間近で見てしまった竹谷の視線はひどく熱っぽかった。


「なあ、……しよ?」
「……いいよ、竹がもっとキスしてくれたら」


くすりと、笑いあって、二人はもう一度キスをした。




















































三郎の「ただいま隠れ中」の派生形でした。
いや、振り回される二人が書きたかったのです。
さすがは竹メン。おっぱい魔人は君に決めた!