白昼夢
なぜこんなにひどい男に自分が捕まったのかは分からない。
自分でも大した魅力などこの体にはこれっぽっちも感じないというのに、飽きることも知らずにこの男は私の体をむさぼるのだ。
「ああ、のこと全部食べちゃいたい」
そう言って、無邪気に笑う顔は本当に普通なのに、そのまま本当に腕に腹に背に歯を立ててくるから始末が悪い。
それでも、まだ理性があるのかかろうじて血がにじむ程度で噛むのをやめてくれるから私は、曖昧にその行動を拒絶して受け入れているのだ。
「ねえ、。私のことスキって言ってv」
ただ、さっき一度夢の中で血にまみれてまるで修羅のように苦無を振り続ける三郎が、最後には何かに気づいてまんまるに目を見開いて刀に背から串刺しにされるのを見た。
雷蔵の顔をゆがめてゴボゴボ血を吐いて、それでいて、にやりと笑みを浮かべてこちらに手を差し伸べてきた。
私は私で、ああ、見ていたのに気づかれてしまったと無感動にその亡骸を眺めていた。
そして、風が吹いて、夢だというのに生臭い香りが鼻を掠めたので、その風になびいた彼の髪を指で絡めとった。
本当の顔はついぞ知ることはなかった。
遺骸を暴いて、今さら彼の顔を見る気もなかった。
それでも、いつもの憎まれ口も、天の邪鬼な視線も、逃げても逃げても追いかけてくる彼の指も、もう動かなかった。
私は、私は、
「三郎」
「なに?」
「好き」
「っ!?」
嗚咽を止められなかった。
「なに、私のことそんなに好き?」
「三郎のこと、大好き」
「!私ものこと大好きすぎて死んじゃう!」
だから、特別に今日は笑って貴方に「好き」と囁こう。
すると、三郎は気を良くしたのかぎゅうっと私の首に腕をまわして抱きしめてくる。
ぐいぐいと押し付けられる彼の髪の毛が、雷蔵とはまったく違った三郎の匂いがして、ひどく安心した。
私も珍しく彼の体に腕をまわしてその体温を、彼の生きている姿を確かめるように抱きしめる。
お願いだから、あんな夢みさせないで。
「三郎三郎さぶ、ろう……」
「今日のは変だな……すごい、素直」
普段の三郎からは考えられないひどく甘くて優しい愛撫。
もう、めまいがしてしまうように体がびくりびくりと反応を返してしまう。
歯を立てられても、何時ものように痛みを感じることもなく甘い疼きが体を走り抜ける。
その一瞬一瞬に甲高い声を上げて、浮遊感に見舞われる。
「、」
「さぶ、ろぉ」
終
素直になれば、愛ばかりが待っていることに気づいていない。
疑り深い君。不器用すぎて手放せない。
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