恋するための罠




















まさか、ここまで思った通りに事が進むだなんて思ってもいなかった。
単純に考えてみて、確かにこの罠にがかかる確率はそうそう低くはなかった。だが、俺自身の予想では運が良くてが引っ掛かる程度だった。
下手をすれば、火薬委員の後輩のタカ丸が引っ掛かる可能性だって、一年は組のしんべヱが引っ掛かる可能性だってあったはずだ。
もしも、その二人が引っ掛かれば何もかも諦めて、単純に放置して図書室にでも行こうかと思ってたんだ。
なのに……なんで


「引っ掛かってるんだよ」


茂みの中で、自分にだけ聞こえるように呟いたはずだが、思わずぐっと両手で口元を押さえてしまった。
辺りをきょろきょろ見回すは、用心深いのか深くないのかよくわからない。
こそこそと、落ちているまんじゅうを拾いながらこちらにやってくる。
その先に準備してある縄には一切気付いていないのか、鼻歌すら聞こえてきた。
頭痛いかも。


「わ、わ、わ、こっちにも……あ、こっちにも!」


跳ねるようにして拾ったまんじゅうを口に放り込んでいく
その姿を見ながら、頭の中で寝る前や、授業中の暇な時に何度かなぞっていた手順をもう一度なぞった。こうして、こうして、こうして。ああして、そんで。
ぐっと、腹の底に力が入ってしまうが、問題のない。体は適度に軽い。
息を短くはいて、気持ちを整えると同時にがこちらには気付かずに目の前で歓声を上げた。


「またあった!!」


飛びつくのと同時に、手に握っていた紐を強く引いた。
一瞬のことで、には何があったか分からないだろう。声も出せずに、はみるみる上へ上へと昇っていった。ぼとりと、と入れ違いにまんじゅうがひとつ落ちてきた。
無言でキャッチして、口の中に放り込んだ。


「……あっま」


まんじゅうを咀嚼しながら、懐から苦無を取りだした。
木の幹に思い切り打ちつけると、鋭い小気味いい音がして深々と突き刺さる。
口の端に付いたあんこを舌でなめとり、一気に跳躍した。
苦無を思いきり踏みしめて、さらに跳躍する。
両手でしっかりと枝を掴んだ。幾度か反復した行動がストレートにできることは、ある種の快感を生み出す。頭の中で描いていた道筋をなぞる指先にぴりぴりと興奮が痺れを生む。


「おい、っしょ……と」


くるくると、景色が回るが捕えている目標物はぶれることなく視界の真ん中に捕えていた。
あっという間に、私の体も高い所まで登ってきた。
やはり、片手だけが吊られていると言うのは苦しいのだろう。はふくれっ面で自分の利き手を捕えている縄を反対の手で掴んでいた。


「あ!久々知!」


登ってくる私の姿に気付いたは、ぱっと眼を見開いてこちらを見下ろした。
風がの髪や体を揺らす。なぞった指が終着点ではなく通過点を捕えると、いよいよ痺れは強くなる。


、どうした?」
「あのね!うわっ……ん、むぅ」


驚いたことで血が上っていたのか、ほんのりと上気している頬をしっかりと両手で包みこみ、柔らかく唇を食んだ。
舌をたっぷりと絡ませて、有無を言わさず口付けを施す。
くちゅりと、頭の中を掻きまわすように音が響く。
にも同じ音が聞こえているだろうか。


「ん…ふぁ」



低く、掠れた声での名前を呼ぶ。
二人の間で、唾液の糸がきらりと光った。


「あま……」


の唇の端についていたあんこもついでに舌先で舐め取った。
ここはまだ、通過点。あくまで途中。


「へ、へーすけ」
……」


とろんとした瞳のに微笑みかけて、もう一度唇を重ねた。





























つり橋効果