加速度























































「うっ、そ………………」


打ちつけた背中が痛いのも、全然気にならない。
顔が、死ぬほど熱い。
いや、熱いってもんじゃない、どうしよう。


「やだ」


訳が分からない。
頭がぐちゃぐちゃで、死ぬのかもしれない。
床も揺れている気がして、壁に伝ってその場に座り込んだ。
夕日が障子に遮られ、甘美な柔らかさを膝に落としていた。
ゆるりと、ようやく呼吸が出来た。


「嘘、」


戻ってくる記憶の波の中に、巻き込まれる。
























「なによ」
「それさ、いつ終わるんだよ」


中在家先輩もいないことをいいことに、久々知は平気な顔をして私に話しかけてくる。
頬杖をついた久々知は、退屈そうにあくびをした。


「うるさい、私が頭悪いの馬鹿にしてるの?」
「え?って馬鹿ではないだろ」
「……はあ、ありがとう」


まっすぐすぎる久々知の視線が苦手だとは口にせずに、本へと目を戻す。
意味をなしているはずの文字は、どうしても無秩序な単語の羅列にしか見えない。
ああ、どうしてこんな宿題が出てしまうのだろう。
思わず、ため息も出る。


「な」
「……久々知、お願い。私が忙しいって分からない?」
「………わかんない」


困ったことに、久々知の手が私の手を握ってしまったから頁をめくることもできない。


「別に、暇な人なら竹谷だって、三郎だって、雷蔵だっているでしょ?」
「……」
「あ、だったら四年のタカ丸だっけ?あの人も火薬委員で一緒なんだからかまってもらえば?」
「ばか」
「は?」


つんと、突き出された唇は桜色。
何拗ねてるの久々知。


「俺は、が好きなんだよ」
「は?」
が好きで好きでしょうがないから、にかまって欲しいんだよ」


握られた手は、いつから私の手をすっぽりと覆うようになっていたんだろう。
まともに息が出来ない。


は俺のこと好き?」


思わず、全速力でその場を逃げ出した。


























「卑怯だよ、久々知兵助」


心臓がいかれてしまう。
何にも聞こえない。
なんで、こんなに熱いの。
小さく浅く息を繰り返す。
握られた手が熱くて、反対の手で握り締めた。
久々知の手とは似ても似つかぬ私の手。


「馬鹿」


気付かされた気持ちが、加速していく。