歪む気持ち なんて、しょうもないことなんだと、分かっていた。 こうすることで、一体何かが変わるのか? 確かに変わることは変わるだろう。ただし、それはとてもじゃないが正しいとは言えない。 それなのに、止まることも、振り返ることすらも私はしない。 向かいに座った竹谷が頬杖をついて、私のことを見ている。 私は、いつものお決まり通り雷蔵の顔でにこにことほほ笑んでいた。 「それで、三郎。俺に話ってなんだよ」 「あ、ばれてた?」 「当たり前だろ。俺たちの付き合いどれだけだと思ってんだよ」 「まあ、そうだよね」 「雷蔵のふりはもういいから、さっさと話してくれよ」 しばしばと目を擦りながら、竹谷はあくびをかみ殺す。 どうやら、昨晩は一晩中生物委員会で逃げだした毒虫を探し回っていたらしい。 さっさと部屋に帰って寝たいのが、本音だろうが、こうしてわざわざ付き合ってくれるのだから、私たちの友情も、熱くたぎっているということだろうか。 「だー、三郎、なにニヤニヤしてんだよ。気持ち悪いぞ」 「ああ、なに?私がかっこよすぎて、竹には追いつけないほどの秀才だって?分かってるよ、そんなこと言わなくても」 「……はいはい、そうですね。三郎さまは天才ですよ」 「言われなくても分かってるってば」 「それで?」 促されて、私は覚悟を決める。 些か、饒舌になりすぎていた。 「あのさ、竹谷」 「おう」 ああ、なんて雨が降りそうなんだろう。 ほんの僅かでも風向きが変わり、冷たい空気が雲を冷やせば瞬く間に雨水がこぼれだす。 ここに私たちが来るまでは、あんなにも日差しが暖かく太陽の光が穏やかだったのに。 気まぐれな天気はまるで、私の様だとが笑っていたのを思い出した。 「のことなんだけどさ」 「お?ついに、どっちかと付き合うのか?」 「茶化すなよ。の実習のことなんだけどさ」 「……あ、ああ」 一瞬動揺が竹谷の瞳の中で揺れる。 やっぱりと、確信が胸で膨らんだ。 そうすれば、後はなんのためらいもなく口にするだけだった。 「先生から、言われたか?の……相手しろって」 「三郎」 「なあ、竹谷」 まっすぐに見据えた私を、同じように見返してくる竹谷。 いいんだよ、私たちの間に遠慮はもういらないだろ? そんな私の考えを見てとった竹谷は、正直に口を開いてくれる。 「ああ。言われた。もうこれ以上は、延すことはできないからって。俺は気が進まないが、実習をしなければがくのいちになれなくなっちまうだろ?」 その通りだった。 「そのことなんだけどさ、もう、実習しなくていいから」 「は?」 「の相手は、竹谷も久々知もしなくていいから」 いつものように、へらりと笑いながら話す。 これが、私のことを守る殻。 「は、私たちが面倒みるからさ。先生にも、私の方から言っておく」 「三郎、お前」 「だから、心配しなくていいから。ごめんな」 「おい!三郎!!!」 机を強く叩いて、竹谷は立ち上がった。 私は、へらへらと笑う。 「なんだよ、竹」 「どういうことだよ。私たちって、お前らまさか……」 「そうだよ。私と、雷蔵がの相手をするから」 「……三郎」 「なんだよ」 「お前、それでいいのかよ?」 ずきりと、痛む。 「いいんだ」 決めたんだよ。竹谷。 私たちは、このままで一緒に三人でいるって。 雷蔵と、決めたんだ。 「いいんだよ、竹谷」 「………」 「それじゃあ、私は二人の所に行くから」 そのまま、立ち上がって食堂を出ようとすると、後ろから竹谷に呼び止められた。 笑みを張り付けて、振り返る。 ぱちりと、雨が地をうつ音が聞こえた。 どうやら、予想通りに雨が降り始めたらしい。 「お前ら、おかしいよ。……なんか、間違ってる」 「………知ってるよ、竹谷」 「分かってんのに、なんでだよ」 「私は、欲張りだから」 そのまま、竹谷を一人残して私は図書室へと向かった。 「三郎、お前……なんて顔してんだよ」 めまいを感じながら、今出て行った友の顔をうまく思いだせずに竹谷は座り込んだ。 雨が、地をうつ音が静かに響いてきた。 終 何にも考えていない。 そう装うことが、保つことと信じて。 |