歪な笑み



































君を手中に手に入れた時、どんなに僕が嬉しくてしょうがなかったかなんて、想像もつかないでしょ?
僕はずっと君が好きで、三郎もずっと君が好きで、僕も三郎もお互いが大事で。
君への想いも、互いへの思いも、また別の意味を持っている癖に大事すぎて苦しくて。
だから、二人で君のことを手に入れた時、僕はまるで狂ってしまうほどの寒気がこの体を取り巻いていたんだ。
君が好きすぎて、嬉しくて。





























普段はいたって平穏な、いつもと同じ日々を過ごしている。
三郎も私もそれぞれの委員会に出て、もくのいち教室の方で用事があるらしくまだ今日は見ていない。
図書室には誰もいない。
私たった一人。
明かりとりの窓からは日の光がまっすぐに差し込み、正確な四角形を床に描き出していた。
その光の空間の中に空気中を舞う埃が、ちらちらと光を反射しながら空を舞う。


ちゃん」


ぽつりと、口に出してみる。


ちゃん」


唇からまろびでる君の名前一つで、こんなにも胸がときめくんだ。
微かに速まる鼓動に、君への想いを感じ取って嬉しくなる。
ああ、ちゃん。
ずっと、君に触れたかった。
君がほしかった。






















しばらくすると、授業が徐々に終わった後輩や上級生の姿が本棚の間からちらほら見えるようになってきた。
そうすれば必然的に、自分がしなくてはいけない仕事も増えてくる。
次から次へと差し出される返却や、貸し出しの本を確認しては、カードに名前を書いていく。
手元とにらめっこ。
だから、気付かなかったんだ。
ちゃんが図書室に来ていてくれたことに。
大分、人がはけてやっと一息ついた。
ふと、視線を書架に向けると見慣れた後ろ姿がパッと目についた。
さすがに今度は勉強している人もいたため、唇だけを動かした。


ちゃん』


また、心臓が音を立てて加速していく。
ちゃんが立っている本棚の場所。開いている本。
あそこは……

知らず知らず、弓なりに細める目に、唇。
図書室内に視線を送ると、貸し出しも返却に来るような人は見当たらない。
まさに、絶好のチャンスだった。
音も立てずに、私はそっと席を立った。





























は、雷蔵に面白い本がある本棚があるよと言われ、せっかくの機会だったし図書室に足を向けた。
図書室の中に入ると、いつになく忙しくなっている貸し出しカウンターには雷蔵一人が座ってみんなの相手をしている。
本棚の場所も聞いていたため、雷蔵には声をかけずにそのまま本棚へ向かった。
あとで、もっとすいたら声をかければいいか。
さわさわと、耳障りにならない人の囁き声が天井から降って来るように感じる。
図書室独特な雰囲気の中、は目的の本棚をとりあえず上から下まで見てみたが、背表紙にはなにも書いておらず、どれをとればいいのか考えあぐねていた。
指を這わせて、適当な所で止めると触れていた本を取り出してみた。
どれでも面白いからと、言われたし……
和紙独特の分厚さと、硬さをめくると、美しい遊び紙が目に飛び込んだ。
ああ、こんなに上等な紙を使っている本は珍しいなぁと、続いて頁をめくった所で、の手が止まった。
視線が、その絵から離せなくなった。
全体を捉えきれない、どこを見ていいのかわからない、それなのに、どうしても見て、しまう。
どくどくと、耳元で血液の流れる音がうるさい。
自分の微かな呼吸すら、誰かに聞こえているんじゃないか。


「面白い?」
「っ!!?」


声を出す前に口をふさがれた。
すっかり固まってしまった首を、ぎりぎりとそちらに向ける。
悠然と、笑みを浮かべた雷蔵の顔。
その一瞬では、にはそれが雷蔵なのか三郎なのかわからない。


「ね、。面白い?」
「あ、う…」


声をひそめて会話。
耳に彼の唇が触れてしまうほどの所で囁かれる。
そんな行動よりも、今自分がこの本を見ている所を見られてしまったことに、恥ずかしさが募りうまくしゃべることすらできない。
意地悪く笑みを浮かべるこの人は、三郎?
自分のことを名前で呼ぶのは、三郎のはずだけど。


も、こんな格好してやられたい?私たちに?」
「ちがっ」
「しぃー」


ぴったりと唇を人差し指でふさがれて、顔を赤くすることしかできない。


「ほら、この絵も丁度三人。私たちも三人」
「ん」


唇を滑って降りていく指先。


「こうして、ここに、」


顎、首筋、胸元、臍……
優しく滑り降りていく。
その指先は


「射れてほしいんだろ?」


きゅうっと、弓なりになった瞳と唇を顔を真っ赤にして見つめるしか出来ない
触れられた場所に熱が集まっていることは、自分でもわかっていた。


「だって、もうさ………濡れてるでしょ?」


行為を重ねようとも、慣れることのない羞恥。


「さぶ、ろぉ?」


雷蔵の笑みがただその顔には貼りついていた。
荒々しく口付けをされ、の体がびくりと強張ったのを、まるで喰らいつくすかのように抱きしめながら彼はを貪った。


「早く、君が欲しい」


















































図書室での出来事。