実習だ!































「あー…今日の授業って、あれだろ?他学年との合同実習訓練だろ?」
「うん。竹谷めんどくさそうだけど、私たち同じチームなんだからちゃんとやってよね?」
「雷蔵〜、大丈夫だって。竹谷はやるときゃやる男だって!」
「そうそう。それに私と三郎だっているんだからそんなに心配しなくったって、私たちなら負けないって」


集合場所に向かって、四人はだらだらしゃべりながら向かっていた。
今日は他学年との合同での実習訓練。実際に現地に行ったところでどの学年と訓練をするのか分かるため、こんなところから気を張っていても意味がない。
雷蔵も、少し心配そうだったが、すぐにいつもの調子を取り戻して四人は笑い声を立てながら歩いて行った。
しかし、集合場所についてからその笑い声はぴたりと止まり、竹谷がうんざりといったため息をついた。


「なんだよ〜…俺、今日は三年とか四年との訓練で楽できると思ったのに……」
「どぉわぁ〜、本当だよ。私も学年下のやつと当たって楽チンコースだな!って意気込んでたのに」
「まあ…楽はできなさそうだね」
「ありゃりゃ〜、今日は六年生との対抗実習か……」


集合場所に集まっていたのは、見慣れた五年生の忍び装束と、よりによって六年生の草色の忍び装束。
がっくりと肩を落としている竹谷と三郎をまあまあと、なだめながら雷蔵と久々知は五年生の列へと向かった。
どうにも、楽はできないだろう……


「え〜、それでは今日の実習の説明をする!よーく聞くように!」


先生が背後の森を手で示して、整列した六年と五年に向かって本日の実習の内容を説明し始めた。


「今回はこの森で実習を行う!各々、あらかじめ班を組んでもらっていると思う。その班に事前に渡してある巻物を奪い合うというのが今回の課題だ。もちろん、六年生は五年生のを、五年生は六年生の巻物を取るように。手段は自由。なにか問題があった場合は、いつもの通り狼煙で私たちに知らせるよ―に!」
「「「「「はーい」」」」」」


心なしか、五年生たちの声が低かったのは、嫌な予感を感じ取ってのことだったろうか。
六年生たちは、数の少なさもあるが、その分プロの忍びに近いため余裕すら感じられた。


「それでは、実習開始!!!」


その掛け声とともに、あっという間に森の中へと忍たまたちは姿を消していった。
もちろん、竹谷たち四人班も他の忍たまたち同様に姿を消していった。


「おわぁ!!!!??」
「油断大敵火がボーボーだぁああ!!」


そんな四人の背中に、早速五年生のやられてしまう声が聞こえた。
実習開始とともに動き出した六年生の班にどうやらあっという間にやられてしまったらしい。
余裕綽々の高笑いが聞こえていた。


「うわぁ、あの声……潮江先輩の声じゃないか?」
「だ〜、あの人やる気満々だな」
「あー、私気が重いかも…」


うんざりといった様子の三人に竹谷はにかっと笑顔を向けた。


「ま、はじまっちまったもんはしょうがなくね?がんばろうぜ?」


その笑顔につられて、三人も思わず笑みがこぼれた。


「そーだね、私たちなら負けないし?」
「うん、がんばっちゃおっか?」
「おう!それじゃあ、まずは安全な場所で作戦会議といきますか!」





































早速茂みに姿を隠した四人は背を互いに預けながら周囲を警戒していた。
そして、その体系のまま作戦を練ってる。
嬉しいことに、周りに六年生たちの気配はない。


「でもさ、あの最初に聞こえた潮江先輩の高笑い……あの人今回だいぶやる気満々じゃないのか?」
「あ、三郎もそう思う?私も一つの班潰したぐらいじゃ満足しないと思うんだよね」
「しかも、どうせあの六人が一緒の班になってるんだろうなぁ……」
「ああ、委員長集団か?目、つけられたらめんどくさいだろうなぁ」


思わず出てしまうため息。
ともかく、あの班を回避しながら手堅く弱そうな少人数班を狙うのがいいのではないかと、話がまとまりそうになった時だった。
突如、近くの木の上からがさがさ音がしたかと思うと、はらはらと葉が落ちてきた。
一瞬にして緊張が走る四人。
一番近くにいた三郎が鋭く声を投げつけた。


「誰だ!!!でてこい!」


白々しいほどまでの沈黙。


「ばれてないとでも思ってるのか?早く出てこい」


次に声をかけたのは久々知だった。
すでに、久々知の手には苦無が握られている。


「おらよっ!!」


痺れを切らした竹谷が棒手裏剣を木の上に向かって投げつけた。
鋭く、木に突き刺さる音がこだました。
それと同時に、ぎゃあと、うめき声とともに人影が木の上から落ちてきた。
雷蔵が素早く対応して、その人影が地に着くか否かのところでもう人影を取り押さえていた。


「あ、い、いった〜〜〜い!!!」
「え!!?あ、ちゃん!!?」


むぎゅうといった感じで、地面とこんにちわしていたのは同じ学年のだった。
慌てて、雷蔵はひねりあげた手を離して、を助け起こした。


「ぶえっ、砂が入って口の中じゃりじゃりしてる……」


いつの間に近づいてきたのか、三郎が至近距離でにやにやとほほ笑んでいた。


「え〜、じゃあ、私が口の中舐めて綺麗にしてあげようか?」
「ぎゃ!さ、三郎!!」


後ずさりして、口を押さえてぶんぶん首を振るを見て大笑いしている三郎。


「おい〜、あんまりのことからかうなよ」
「だって、久々知見ろよ。今すごい早さで下がりすぎて、あの木に頭ぶつけてるぜ?」
「あ、ちゃん、大丈夫?」
「ぶはははは〜!、まだ頭ぶつけてるから首ふるのやめろよ!!」
「た、竹谷、笑ったら…く、くくく」


ごんごん連続で頭をぶつけているを見て、思わず久々知もついに笑いだした。
まるっきり先ほどまでの緊張の糸のかけらもなくなった。


「ほら、ちゃん。たんこぶできちゃうでしょ?」


心配そうに雷蔵がの頭を掴んだところで、ようやくも首を振るのをやめた。


「うわ〜ん!雷蔵!だって、三郎が気持ち悪いんだもん!変態なんだもん!」
「そうだね…変態かもしれないけど、ほら、真性じゃないかもしれないから。ね?」
「う、うん……」


三郎を警戒しながら、は雷蔵に手を引かれて三人にようやく近づいた。


「で、なんでがこんなところにいるんだよ」
「別に、手出されても私今久々知にあげられるような豆腐は持ってきてないよ?」
「チッ…」


ぱちんと、手をたたかれてぶうたれた久々知はほっといて、竹谷がぐりぐりとの頭を撫でる。


「ちょ、竹谷やめてよ〜!」
〜、なにしに来たんだよ?」
「おわ、三郎気持ち悪い!背中触らないでよ!!うぁ〜〜…ら、雷蔵!!」
「ああ、もう、三郎話が進まないからもう少し我慢して!」


ばっと、のことを背にかばって雷蔵が優しくに質問した。


「で、ちゃんなんでここにいるの?」
「あ、そうだった!私ね」


にっこりとほほ笑む


「巻物集め!」


その言葉にさっと、嫌な予感が四人に走る。
思わず竹谷が己の懐を押さえた。


「動かないで」


その瞬間、竹谷の首筋に苦無が押しつけられた。


「な、い、伊作先輩!!?」
「やあ。あ、みんな出てきても平気だよ〜」


ぞろぞろと、出てきたのはいつもの六年仲良し六人組だった。


「なはははは〜!さあ、武器を捨てろぉ!」
「いやぁ、やっぱりを使ってよかったな!!」
「どわ、食満先輩!私モノじゃないですよ!!」
「ああ、そうだ!食満てめぇ、うちのかわいい後輩を物扱いすんな!をモノ扱いしていいのは委員長の俺だけだ!」
「……文次郎先輩、私のことせめて人間扱いしてくださいよ」


忘れていた。
は会計委員だった……。
五年の三人はばらばらと、武器を落として顔をひきつらせた。


「先輩方……なんでもありって言ってたけど、使うのは反則ですよ」
「久々知。使えるものがあるのなら何でも使うのが忍びだ」


にたりと、馬鹿にしたように仙蔵が笑った。


「さ、。竹谷の胸倉を探ってやれ」
「え……仙蔵先輩、自分でやってくださいよ」
「やれ」
「……はい」


命令されて、すごすごとが竹谷に近づいて、ごめんね?と、首をかしげて竹谷の懐に手を突っ込んだ。
しばらくごそごそしてから、あれ?とが首をかしげる。


「先輩……入ってません」
「な、に?」


と、その瞬間。
伊作にとんでもない不運が落ちてきた。
さっき竹谷がに向かって投げて、幹に刺さったままになっていた棒手裏剣が抜けて伊作の頭に落ちてきた。
コーンッと、痛そうな音がしてとがっていないところが伊作の頭を直撃する。
あまりの痛さに目から星を出した隙をついて、竹谷がの体を横抱きにして一気に走りだした。


「うわっ!!!?や、も、文次郎先輩たすけてぇええええ!!!」


竹谷に続いて、久々知と雷蔵もその後を追って逃げだした。
最後に残った三郎がにやりと不敵な笑みを浮かべた。


「まあ、たっぷりにはお仕置きさせてもらいますから」
「なっ!!?お、俺のに何する気だ!!?」
「ナニでしょうね?潮江先輩」


三郎は、思いっきり地面に煙玉を叩きつけるのと潮江が動いたのは同時だった。
ようやく煙が晴れた時には、すでに五年の姿はなく、ちくしょうと、潮江が地面を殴りつけただけだった。


「ぎゃ〜!伊作!お前がたるんどるからうちのが!!!」
「え〜!私のせい!?」
「まあ、ともかく……どっちにしてもあいつらを追う方がさっさと巻き物も手に入りそうだな」
「お!仙ちゃん走るのなら私にまかせろ!?」
〜!」
「うるせぇ文次郎!!黙ってろ!」
「なんだと食満〜〜!!?」
「ああ〜!?やるかこのバカ!」
「…………早くしないと、逃げられる」


ぎゃあぎゃあいいだした二人を抑えるために縄標を長次が懐から出したころ……
五年生たちは。


「ひどいよ!ちゃん!私のこと裏切るなんて!!」
「むごむごむご〜!!!(ごめんね!雷蔵!雷蔵のことは〜!)」
「こうなったら、は豆腐の刑だな」
「むごおおおおお!?(どんな刑〜〜〜!?)」
「まあ、三郎が追いついてからどうしてくれるか考えような。な、?」
「む……むごむごむご……(た…竹谷笑顔が怖い……)」
「ランララーン!!〜〜〜!!!!」
「むぎょぉおおお!!(三郎がきた〜〜!!)」


猛然と逃げていた。


「むごぉおお!!(助けてぇええ!!)」




















































三郎よ、変態であれ。
雷蔵よ、癒しであれ。
竹谷よ、爽やかであれ。
久々知よ……豆腐であれ。


文次郎の後輩になりたいです。