今が、はじまり 寒い寒いとばかり思っていた矢先、唐突にお天道様は微笑み体の表面をじんわり撫でるような暖かさになった。 まだ、日陰に入ってしまうと寒いのだが、日向にいればぽかぽかと気持ちがいい。 そんな、陽気の今日。 「うー、あったかい」 全身の力という力が抜けきって、廊下を歩いていた。 もう、気を張ることなどこの世の中にはなにもないと思うほどに、気持ちがいい。 寒がりなせいもあり、この暖かさは文字通り身にしみるほど嬉しい。 うっとりと、目を細め外へ目をやれば、暖かそうな光で満ちていた。 「あっ!わっ!!?ど、どいて!!!」 「へ?」 だから、前方から本の山が迫ってくるなど、気づきもしなかった。 勢いをもった本の突進。 咄嗟に目を閉じると、ドサドサと本が落ちる音が聞こえた。 そして、柔らかい感触が……唇に。 「んっ!!!?」 「っっっ!!!!?」 「わ、あっ!ご、ごめん!!!」 「え?……あ、ご、ごめん!」 目を開けると、目の前に茶色い瞳。 私の瞳を見つめて、目を見開くとばっと音を立てて離れた。 そこで、ようやくそれが雷蔵だと分かった。 雷蔵は顔を真っ赤にして、ごめんごめんと繰り返しながら慌てて頭を下げている。 「あ、だ、大丈夫だから、雷蔵」 「ちゃんごめん、ごめんね!」 「ちょ、ちょっと雷蔵そんなに…」 謝られている私と、謝る雷蔵。 たかだか口づけなんて、くのたまにはへっちゃらなのに。 そんなに謝られると、だんだんこちらまで気恥ずかしさが生まれてきてしまう。 どうしようと、戸惑っていると雷蔵の来たほうからトタトタと軽い足音をたててきり丸が走ってきた。 手には、数冊の本。 彼は床に散らばっている本を眺めてから、わざとらしいため息を大きくついた。 「あぁ〜……雷蔵先輩だからめんどくさいけど、二往復しましょうって言ったじゃないっすか……ん?」 「きり丸〜」 助けを求めて、きり丸の方を見つめるとしばらくきり丸は私たちの姿を観察した後、八重歯をにっと見せて笑った。 なにか、嫌な予感が…… 「雷蔵せんぱーい、謝るだけじゃだめだと思いますよ〜」 「え!?あ、謝るだけでいいよ!?しかも、もう本当雷蔵気にしないでいいからね!?」 きり丸の言葉でぴたりと動きを止めた雷蔵に、ますます嫌な予感が…… 「そう、だよね」 「え?」 「そうっすよ〜!」 「ちゃん!ぼ、ぼく責任とるから!」 「え?」 顔を真っ赤にしながらも、まっすぐにこちらを見つめてくる雷蔵に、思わずなにも言えなくなる。 「僕のお嫁さんになってください!!!」 真剣な眼差しだった。 「僕が責任を持って、君を幸せにする!」 誰も、『キスされたからお嫁にいけない〜!』なんて定番の言葉を口にしてないのに。 雷蔵は、まっすぐにこちらを見つめている。 「え、あ、は、はい」 反射的に返事をしてしまった。 「ちゃん!」 少し恥ずかしそうに、微笑みながら雷蔵が私の手を握った。 雷蔵の手は、太陽みたいにポカポカしていた。 その温かさに、なぜだか嬉しくて恥ずかしくて顔が熱くなる。 「やった〜!じゃあ、先輩!一緒に運ぶの手伝ってくださいー!」 終 時間アンケート 昼 一位 不破雷蔵 |