夢の中でだって 静かなはずの図書館で、まるで秘めごとでも二人で作っているように頭を寄せ合って話していると、隣から君のいい香りがする。 そんな瞬間に瞳を閉じると、悪戯っぽくわらう君の声が耳を打つ。 大切な、僕の時間。 「ね、雷蔵。どうしたの?ねえ、聞いてくれる?」 「うん、いいよ。どうしたの?」 とっておきの秘密を打ち明けるように、少し恥ずかしげに口を開いた。 薔薇色の唇から零れる白い歯に、胸が高鳴ってしまう。 ねえ、どんな話を聞かせてくれるの? 「あのね、雷蔵の夢を見たの」 「私の?」 「うん」 嬉しいのか、悲しいのか少し複雑な顔を見せてから、彼女は私を見つめながら話し始めた。 まるで、夢の中のぼくを僕に重ねているかのような眼差し。 「すごく綺麗な水の中に私と雷蔵がいるの。それでね、先を泳ぐ雷蔵の手を取った瞬間」 一度、言葉を区切って。頬に睫毛の影を落とした。 「上から何本もの苦無が降ってきて、雷蔵は私のことを抱きしめてくれるの」 相槌も必要ない、ただの独白。 秘密の告白。 「水の中のに、雷蔵の声がはっきり聞こえるんだ。逃げてって」 どんなに泣いても、叫んでも、雷蔵は笑うだけで、唇からもたなびくように血が流れてる。 雷蔵は、まるで浮かびあがるように両腕を広げてこっちをまっすぐに見ていた。 優しい眼差しに、涙が止まらない。 それなのに、美しすぎる碧に、たゆたう紅。 涙の粒は、どこまでも透明になり果てて浮かんでいく。 雷蔵が、好きで愛おしくて、涙も声も尽きることを知らない。 そんな、ちゃんの夢の話。 話していて、思いだしてしまったのか、泣きそうな顔になりながらぎゅうっと抱きついてきた。 甘くて、柔らかいちゃんの香りが胸一杯に満たされていく。 震える背中を、同じように抱きしめながら、私は瞳を閉じた。 「ちゃん、大好き」 そんなに、私は優しくないよ。 ねえ、ちゃん。君が好きだ。大好きなんだ。 夢の中の自分にさえ嫉妬するような男なんだよ私は。 あさましい感情で、こうして君を抱きしめてるんだ。 「私は、ここだよ。大丈夫」 「雷蔵、大好き」 「だいすきだよ」 ひどいお願いかもしれないけど……本当の、僕だけを見ていて。 大好きだから。 終 |