おみとおし





























せっかく珍しく二人きりになれたと言うのに、雷蔵は三郎が出て言った瞬間「さあ」と言って私に目もくれず、どれから読むか悩んでいた本の一冊に手を伸ばした。
こちらがそんな彼を恨めしげに見つめていることになんて、気付きもしない。
普段は、ちょっと悲しいことがあったり心配事があればすぐさま察して、傍にいてくれたり声をかけている癖に、本当にこういう時には、疎い。
馬鹿と、小さく罵ってやりたくなるほどに気付いてくれない。


「雷蔵〜」
「ん?どうしたの?」


こちらを見もせずに返事を返す。その横顔も柔らかい声色も全部全部好きなのに。
かまって欲しい。
その一言が言えず、悔しさや、困らせてやり心がむくむくと湧き起こってきてしまう。


「知ってる?いっぱいキスすると寿命が延びるんだって」


自分でも、適当なことを言ってしまったと思った。
だが、雷蔵がどんな反応をするのか、困って顔を赤くしてこっちを見てくれないか、胸がドキドキしていた。


「うーん……」


軽く首をひねって唸り声を上げはしたものの、別段、雷蔵の顔色は普段と変わらなかった。
なんだくそう。


「ねえ、ちゃん」


くやしいなと、そっぽを向いているうちに雷蔵が目の前に迫っていた。
驚いて、小さく声を上げると、雷蔵の顔が。
鉢屋はどれだけ雷蔵の真似をしても、雷蔵は雷蔵。
焦げ茶の瞳や、うっすらと頬に浮かんだそばかすが大好き。
どれだけ気をつけていても、漂ってくる雷蔵だけの香りが、愛おしい。


「それ、知ってるよ」
「え?」


今自分が考えていたことが、全部伝わっていたのかと、背筋が凍った。


「その話、この前図書委員で書架を整理していた時に中在家先輩が見つけた本に書いてあった」
「は、え?」


一瞬何の事だかわからずに、ただただ雷蔵の言葉を頭の中で反芻した。


「僕も思ったんだ。ちゃんといっぱい一緒にいたいなって」


ちゅ


「んっ」


啄ばむように、唇を食み、今度はじっくりと味わうように、唇を重ねられる。
ただただ、されるがままに恥ずかしさやら嬉しさで胸がいっぱいになってきたころに、ああ、自分が言いだした話だと思い当たった。


「ふぁ……らいぞぉ」


自然と出てしまう甘えた声に、彼は間近で微笑む。眉根を寄せて笑う、その表情が私を虜にする。


ちゃん、好きだよ」


決して深くない、浅い癖に甘ったるいキスを何度も繰り返した。
いつの間にか、天井を背負った雷蔵の首に腕を回すと、幸福感が最高潮まで高まっていく。


「僕も、どうしたらずっと一緒にちゃんといられるかなって考えてたんだ」


んちゅ


「すごい嬉しい、僕たち考えていることおんなじだね」


むちゅ


「はっ、ぁ……かわいい」


とろんと視界がぼやけるほどに、心がたまらない。
キスの合間に小さく息を漏らして、顔をそむけた。
その頬にすら、雷蔵は小さい口付けを落とす。
心地よい感触に、体を震わせた。