風切った羽根2 部屋の中に飛び込んできた影を見た途端に仙蔵は、眉をひそめた。 見苦しいったらありゃしない。体の端々に木の葉をつけてぜーぜーと息をつく文次郎は、既に寝巻に着替えていた仙蔵を気にすることもなく部屋の中へと入ってきた。 「文次郎!先に風呂でも入ってこい!」 「仙蔵!こいつをどうにかしろ!」 一喝した後に、そのまま喰ってかかる様に返されれば頬もひきつるというものだ。 しかし、長年のよしみというものか、心広く仙蔵は文次郎の無礼を堪えて彼の言う「こいつ」の方へと眼をやった。 小柄な、山伏姿の影。 「文次郎ー文次郎ー文次郎ー!」 「うるせぇ!」 文次郎に怒鳴られていると言うのに、そいつはとてつもなく嬉しそうな顔をしてへらへらと笑っている。 「なんでだよー!なんで私とまぐわらないんだよー!」 「だ、このバカタレ!なんで男とまぐわうんだ!」 「えへへへー」 そんな二人のやり取りを見て、ふうと、仙蔵はため息をついた。 そして、おもむろに文次郎の目の前に立つと、抱えられていたを文次郎から取り上げ、きちんと立たせてやった。 きょとんと、眼を丸くしているの頭をまるで作法委員の後輩たちにしているように撫でながら仙蔵は、にこりと文次郎に微笑みかけた。 「貴様の目は、まさに節穴だな」 「あ?」 「この子は、女の子だな」 「………は?」 ぽかんと、の顔を穴があくほど見つめる文次郎。 確かに言われてみれば、髪が短く、山伏姿でなければ女に見える。 「じゃ、じゃあお前くのいちか?」 「くのいち?なんだそれ。私はだ」 「だ、そうだ」 山伏姿で深夜の山中にいたことから、文次郎はが忍たまだと勘違いしていたらしい。 しかし、くのいちでもないのなら、なぜこんな深夜にあんな場所にいたのだろうか。 「じゃ、じゃあ、お前何なんだよ。なんで、そんな格好してるんだ」 「は?決まってるだろ」 はあっけらかんとした笑みを浮かべた。 「私がだからだ!」 「どぁああああ!!話にならん!」 話が通じないこいつは、委員会の後輩たちよりも手ごわいのかもしれないと、文次郎は頭が痛むのを止められなかった。 ひと癖も、二癖もある周りの奴らと比べても、はとびきり癖があると、嫌な予感がしていた。 「な!だから、わかったろう?文次郎!」 「手を握るな!」 「私と、まぐわおう!」 「お前ら、うるさくするのなら、山の中にでも行け」 「あ!お前もなんて言う名前だ!?」 ひくりと、眉間のしわが深くなったのにも気付かずにニコニコと仙蔵を見上げる。 一瞬苛立ちがこみあげたが、の顔を見てため息をつくと不思議と方の力が抜けた。 なあなあと、催促するの頬についた泥を拭ってやりながら仙蔵は答えた。 「私は、立花仙蔵だ」 「へー!仙蔵か!」 嬉しそうにぶんぶんと文次郎とつないだ手を振り回しながらは仙蔵と文次郎の名前を繰り返した。 なんとも無邪気な様子に、思わず笑みがこぼれてしまう仙蔵だったが、それに対して文次郎はうんざりとした様子だった。 「とりあえず、二人ともその泥を落としてこい」 遠くで、獣のなく声が微かに聞こえた。 湯上りのを見ていると、湯気が頭から出ているような錯覚を起こしてしまう。 それほどに、は嬉しそうだった。 しかし、仙蔵は何度目かのため息をつくと手ぬぐいを手にを床に座らせた。 文次郎は、腕にをひっつけたまま、の隣でそっぽを向いていた。 「なぜ、そのまま出てくる」 「え?だって、頭なんてそのうち乾くだろ?いつも水浴びするときはそうだ!」 「はぁ……女の子だろう?」 の後ろに回ると、手ぬぐいで髪の水気を吸わせていく。 髪から垂れた雫がの肩を濡らしていた。 後ろにいた仙蔵は気付かなかったが、文次郎はの体がほんの僅かに揺れたのに気づいた。 そして、小さな呟き。 「女だから……なんだよ」 ぎゅうっと、しがみつく力が込められた。 「寝るぞ」 「え?」 「仙蔵もういい。もう、寝る」 「………ふん」 続 え?これ、えろくなるの? なれるのか自分。 |